第40話 彼らの覚悟
ゲイリーと別れた後、スタン達は深夜にローサの農場へたどり着いた。ローサは遅い時間にもかかわらず、優しく迎え入れてくれた。
ローサには、過去のAI災害の真相を含め、今回知り得たことを伝えなかった。それは真実を受け止める辛さもさることながら、もし「エクスキタティ」が捕まったときに、彼女を守るためでもあった。
長旅の疲れから、一行は泥のように眠った。それでも翌日、ローサの作る滋味豊かな昼食を食べる頃には、すっかり復活して、今後の方針について話し合った。
「現在の社会が、どのように形作られたかはよく分かったわ・・・。何でも出来てしまう『アレルヤ』を恐れた気持ちも少しは分かる。でも、私は納得できないし、当時の政府のしたことが完全に正しいとは思えない。」
マヤが昨日からため込んだ思いを吐露する。
「そうだな。マリアちゃんを見てる限りでは、そんなに『アレルヤ』は信用できないヤツだったのか?って思っちまう。」
ソーレンも同意しつつ、『アレルヤ』についての疑問を述べた。
『でしょ、でしょ?そうでしょ?話の出来るAIに悪い奴いないよ?他のAI知んないけど。』
「真面目な話だから、マリア・・・。」
『ワタシも真面目に怒ってるの!スタンだって、ワタシが心を持ってるからって消されたらイヤでしょ!』
「そうだけどさ。言い方な、言い方。」
マリアとスタンのやりとりが加わり、どうにも緊張感がなくなってしまう。そのままでは、ただの怒りや疑問の提示になりそうな所をマリットが修正を試みる。
「つまり、ここまでの真実を知ってしまった我々の立場としては、現在の社会の形を受け入れるかどうかは、実際の『アレルヤ』次第、と言ったところだな。それに、私とスタン君、マリア君に関しては、現状のままでは、『調停者』から隠れて生きるしかないという現実もある。・・・『アレルヤ』に近づくことが、そうした状況を変える手立てになるかもしれん。」
マリットの言葉から「エクスキタティ」の活動が大きな岐路に立とうとしていることをマヤは感じ取った。
「・・・『アレルヤ』の情報を集めて、『調停者』と、もっと言えば政府と交渉、あるいは戦おうというわけ?」
これまで「エクスキタティ」はあくまで「調停者」から逃れ、真実を求めるだけの集まりだった。そのために多少の危険は冒しても、「調停者」や政府は逃げるべき相手であり、交渉したり立ち向かったりする相手ではなかった。その経緯を考えると、マリットの発言は大きな決断を迫るものだった。
「そうだな。これまでも危険はあったが、今後はさらにそれが高まるだろう。それこそ、生き死にに関わる。」
マリットは顔を上げて、決意を秘めた瞳で続けた。
「だが私は、やる。もう、この先体も衰えていくばかりだ。どうせ表に出られない人生なら、動けるうちに、後悔のないように行動したい。」
そう言い切ったマリットだったが、立ち上がり、少し語気を弱める。
「しかし、『エクスキタティ』の皆には強制出来んな・・・。あまりに危険すぎる。『調停者』に追われている身でもなければ、そこまでの危険を冒す意味は見いだしにくい。ゲイリーにも、今回得た情報はある程度ごまかして伝えるしかないだろう・・・。」
「水くさいぜ!マリット!!」
ソーレンが堪えきれず口を開いた。
「アンタも、みんなに内緒で姿を消したウォズに文句を言ってたじゃねえか!同じようなことを俺たちや他の仲間にもするつもりか!?」
痛いところを突かれ、マリットが苦笑する。続けて、マヤが言った。
「私もやるわ。このまま『アレルヤ』についてさらに真実を知ったとしても、私自身は、『調停者』が人々を傷つける今の社会が許せないんだってことに気付いた。」
覚悟を決めた声だった。
マリットが喜びと悲しみ、申し訳なさの入り交じった表情で言う。
「お前達まで馬鹿になる必要はないんだがな・・・。しかし、自由意志か。ウォズも言っていたな。『自由だ』と・・・。スタン君、君はどうするね?」
『ワタシはやるよ!消されるのはイヤだし、「調停者」をやっつけて、もっと自由になる!』
スタンよりも先にマリアが答えた。スタンはそんなマリアに呆れながらも言った。
「お前がこれ以上自由になったら大変だよ・・・。・・・やります。みんなに最後まで付き合うってのは決めてたし、マリアが行くなら、俺が無茶を止めてやらないと・・・。」
以前の似たようなやりとりの仕返しをするスタンに、頬を膨らますマリアだった。
こうして、スタン達は改めて、「アレルヤ」に、「調停者」に、この社会に向き合っていくことを決めた。




