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第39話 オットーの提案

 トレイス達を乗せた車は学校を出た後、住宅街へと入っていった。やがて一件の家の前で車は停まる。

「ご苦労様です。今から家宅捜索をします。引き続き監視をお願いします。」

 トレイスは無線で家を監視していた要員に声を掛ける。この1週間、「調停者」たちによって交代でこの家は監視されていた。いうまでもなく、スタンと父の暮らす家である。

「高校生が友達の家にも立ち寄ることなく、1週間家に帰らないなど、そうできるはずがありません。おそらく、どこかの不穏分子とつながってしまったのかも知れませんね。もしそうなら、ある意味では一網打尽にするチャンスかも知れません。」

 オットーは薄笑いを浮かべながらそう言った。

 「調停者」と一口に言ってもその中身は「調停官」と「転向者」、「執行官」に分けられる。「調停官」は多くの場合、表の顔があり、それぞれ日常を送るための職業を持っている。「転向者」は脳に干渉する思想改造によって、「調停官」の手足となって働く者達である。今、トレイス達の乗る車を運転しているのも「転向者」だった。

 そして、「執行官」は、不穏分子の処分のみを請け負うプロフェッショナルだ。だからこそ彼らには躊躇というものがない。そんなものがあっては自らの職責を果たせないからである。「調停官」が確保した、あるいは「調停官」の対応力を超えた者達を確実に、適正に処分する。そのことに誇りすらもって当たっているのが彼ら「執行官」だった。だからこそ、スタンを切っ掛けにより多くの不穏分子を捉えられる可能性があることはオットーにとって喜びそのものだった。


 トレイス達は車を降り、スタンの家の玄関に向かった。呼び鈴を鳴らすと、疲れた顔の父が顔を出した。

「ああ、先生。おはようございます。・・・ありがとうございます。授業があるのにウチの子のために・・・。」

 父はすっかりトレイスを信用していたので、今この間も、スタンがまっとうな更生施設で過ごしていると思っている。警察の世話にならずに、更生施設での一定期間の指導で済むのはトレイスのおかげであるとさえ考えているのだ。

「いいえ、こちらこそ。平日でお仕事があるのにお時間を作ってくださって。こちらは、施設の担当職員のブルックス氏です。今日はスタン君の指導材料にするために、彼の部屋を確認させてください。いくつか、彼に頼まれた荷物も持っていきます。」

 トレイスが説明した後、オットーと父は挨拶をし、握手を交わす。そして父はトレイス達をスタンの部屋へ招き入れた。

「では、私はリビングにいます。何かあったら言ってください。」

 父が退出し、スタンの部屋にはトレイス達3人が残された。

「・・・なかなかのものです。父親にあそこまで信頼されるとは。子どもを逃がしはしたが、あなたは優秀な「調停官』のようですね。」

 オットーがトレイスを賞賛した。

「どうも・・・。PC周りを中心に、彼の性格や行動等が類推できそうな物品ですね。」

 トレイスはオットーの賞賛を受け流しつつ、回収する物について確認した。

「そうです。中身を確かめつつやっていきましょう。」


 約1時間ほど、トレイス達はスタンの部屋を捜索し、いくつかの物品を押収した。しかし、ざっと確認した様子では、ノートPCはデータが破壊され、めぼしい情報が得られそうになかった。あまり手がかりが得られなかったことに、オットーの顔も曇る。

「ここまで周到にデータ上の痕跡を消しているとは、厄介ですね・・・。」

 仕方なく、スタンの家を去ろうと、父親に挨拶をしているとき、トレイスはリビングの棚に置いてある、モバイルルーターが目に入った。

「つかぬ事を聞きますが・・・あのモバイルルーターは誰が使っていますか?」

「ああ、あれは・・・、私が一時、仕事で使うために購入したのですが、最近は使う機会がなくなって。そういえば・・・先週までしばらくスタンが使ってましたね・・・。」

 トレイスは目の色を変えて父に要望した。

「あのモバイルルーターも、一時拝借させてもらえますか?」


 再び車に乗り込んだ後、オットーが尋ねる。

「よく気付いてくれました。しかし、あのモバイルルーターが、そんな大きな手がかりになりそうなのですか?」

「実は、以前に押収した彼の端末のメモリには、特定のIPアドレスとの通信記録が残っていました。それがこのモバイルルーターかも知れません。そして、モバイルルーターは基地局と通信します。」

 オットーはトレイスの説明の途中で、考えを理解したようで口を挟んできた。

「なるほど・・・。つまり基地局を中心に、彼が自宅以外に拠点にしていたであろう場所を探ろうというのですね。」

 オットーの方を見て頷くトレイス。

「・・・やはり君は優秀な『調停官』のようですね。」

 オットーは満足そうに微笑んで提案する。

「本来であれば・・・、この後、完全に私に仕事を引き継いでもらうところですが、どうでしょう?君さえ良ければ、表の仕事に影響しない範囲で、私の仕事を手伝いませんか?」

 トレイスは意外にも訪れたこの幸運にとびついた。

「ぜひ、お願いします。」

 オットーの仕事に付いていけば、スタンを発見した際に最低限彼、助命ぐらいは嘆願することが出来るかも知れない。わずかな希望を感じてトレイスは気を引き締めるのだった。

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