第36話 夜が明けて帰路へ
ビールを飲み終えたマリットとマヤが戻ってきて、ソーレンとゲイリーは自分たちの部屋へ帰って行った。マリットとスタンが同室で、マヤは別室なのだが、マヤはスタンに声を掛けた。
「その・・・、少し酔ってて申し訳ないのだけど、ちょっと話しましょう。スタン君。」
スタンが応じようとすると、ウェアラブル端末から声がした。
『ワタシは待ってるよ。行ってらっしゃい。スタン。』
しおらしくマリアが言うので、スタンはウェアラブル端末を外し、棚の上に置いた。画面上でマリアが『しっかり話してこい』とでも言いたげな表情をして、握りこぶしを突き出すので、スタンは少し笑い、親指を立てて、マリアの拳に合わせた。
2人はマヤの部屋に行き、それぞれベッドと椅子に腰を下ろした。マヤがスタンの腕を指しながら言った。
「手当はしたけど、痛みはどう?」
スタンは問題ないことを強調するように腕を動かしながら
「大丈夫です。そんなに広い範囲じゃなかったし。」
と言った。
答えてから、わずかな沈黙が過ぎる。時間がたつほどに言いにくくなるだろうと思われ、スタンは意を決して口を開いた。
「心配掛けて・・・、それに約束を破る形にもなって、本当にすみませんでした。・・・でも、俺も、みんなのこと助けたいし、役に立ちたいと思ってます。だから、また無茶をすることもあるかも知れません。・・・十分に気をつけます。ごめんなさい・・・。」
そう言って、頭を下げる。言っていることはちぐはぐではあるが、気持ちはどこまでも誠実であり、それはマヤにも伝わったようだ。少し笑いながら応える。
「謝ってるのか、これからも無茶するって宣言なのか、分からないわよ・・・。でも、分かったわ。あなたの気持ち・・・。私も少し子ども扱いしすぎていたし、大人げなかった。・・・ごめんなさいね。」
その後、夜半までマヤとスタンはお互いの気持ちを話し合った。お互い、母でもないし、子でもない。しかしそれでも2人にとって、かけがえなく感じられる時間となった。2人の間のわだかまりはすっかり解けていた。
翌朝。
「さて、うまい朝飯だった。それじゃあ俺は、不時着の件を謝りに行ってくるよ。お前らも、うまくやれよ!」
スタン達全員分と同じぐらいの量の朝食を平らげ、ゲイリーはこれから、飛行機を所有していた会社に事態の説明をしに行くという。彼に似合う大きなハーフトラックに乗り込み、駐車場を出て行くのをスタン達は手を振り見送った。
彼が食あたりで不時着など、なかなか信じてもらえなさそうではあるが、その豪快さできっと何とか切り抜けてしまうだろう。
「我々は拠点に戻ろう。移動しながら、研究所で手に入れたデータについて共有したい。」
夕べマリットは研究所でコピーしてきたデータを確認していた。そこで何か重要な情報が得られたであろうことが声のトーンから分かった。
スタン達も車に乗り込み、ソーレンの運転で走り出した。
しばらく走ったところで、マリットは重々しく話し出した。
「ウォズの話していたとおり、『アレルヤ』の強制停止によって過去のAI災害は起きていた・・・。」
「ああ、ウォズの言っていたことの裏がとれたのか?強制停止の理由とか。」
ソーレンがウォズのビデオの内容を振り返りながら言う。
「そうだ。」
「何か隠さなければいけない理由があったの?」
マヤが眉をひそめ問う。マリットはゆっくりと頷きながら続けた。
「うむ。・・・過去に存在した超AI、『アレルヤ』は自分の意思を持ったがために危険視されたのだ・・・。」




