第35話 二人の反省
結局、ゲイリーはおそらく食あたりか何かだろうと警備兵に判断され、マヤ達が病院へ連れて行くということで話をまとめた。
スタンについては、高校生にもなってくだらないいたずらをするなと、警備兵らと、マヤ達からこっぴどく叱られた。もっとも、叱る心境は、前者、後者で大違いだったが。
「どうだよ?俺の着陸に、ゲロまで吐いた名演技は!しかし、発煙筒を腕に押しつける小僧の度胸には恐れ入ったがな!」
研究所から引き上げる車の中で、ゲイリーがテンション高く言った。しかし、
「褒められたことじゃないわ。」
と、マヤがぴしゃりと冷や水を浴びせた。静かに、だが相当に、彼女は怒っていたのだ。その迫力に気圧され、車内は静まりかえったまま、昨晩作戦を立てたモーテルへと舞い戻った。
一行はそのまま言葉少なにダイナーで早めの夕食を済ませ、各々の時間を過ごすことになった。
マヤはモーテルの駐車場の脇にあるベンチで一人座り、彼女としては珍しく瓶ビールを呷っていた。そこへ、同じく瓶ビールを持ってマリットが近づく。
「やあ。」
「ハイ・・・。」
声を掛け、隣に座ったマリットに、マヤは力なく返した。
「・・・自分でも反省しているんだな。言い過ぎたと。」
「そうやって、人の気持ちを勝手に言うの、良くないわよ・・・。」
「そうだな・・・。」
マリットは静かにビールを一口飲んだ。
「分かってるのよ・・・。スタン君は私の子じゃない。彼はあなたを助けるために自分に出来ることをしただけ。私がこんな風に怒るのは筋違いだわ・・・。」
「かもしれんな・・・。」
マヤの独白に対し、マリットは受け入れるように相づちを打つ。それきりマヤも黙ってビールを口に運んだ。
「・・・・・・我がことのようで恥ずかしいのだがな。」
しばらく沈黙が流れた後、マリットが不意に口を開く。
「無茶をやる人間ってのは・・・、存外自分の無茶を分かってるもんだ。それを指摘してくれる人間、叱ってくれる人間というのは、・・・自分を理解してくれているようでうれしくもある。・・・彼は分かってくれているよ。」
マヤは黙って頷きながら聞いている。最後にマリットは少しくだけながら付け足す。
「まあ、あの悪ガキに反省は確かに必要だしな。・・・助けられた身で、私からは強く言えんから、君が怒ってくれて助かった。」
2人は顔を見合わせて少し笑う。
「・・・ありがとう、マリット。・・・後で彼と話すわ。」
「そうだな。それがいい。」
その後は、ビールが空になるまでたわいもない話を2人で続けた。
モーテルの部屋では、スタン、ソーレン、ゲイリーが、マリアに研究所での顛末を教えていた。
『もー!!私もゲイリーさんの見事な不時着見たかった!!』
一通り聞き終わって、マリアが残念そうに言う。
「おう、俺も見せたかったぜ!そうだ!いろいろ片付いたら、小僧共々、後ろに乗せてやるよ!ハイGヨーヨーでぶん回してやるぜ!」
『きゃー!たのしそう!!』
盛り上がるマリアとゲイリーだが、スタンは元気がない。ソーレンもスタンを気遣ってか、いつもより静かだ。
「小僧よう。そんなくよくよすんな。マヤの怒りはもっともだが、お前は価値のあることをした。お前がいなきゃ、運動不足のマリットは、今頃まだあの研究所の中だ。」
雑な慰めではあるが、しっかりとスタンを認めるような力強さをもってゲイリーは言った。
「ありがとうございます・・・。でも、人に心配掛けるって、自分もちょっと辛いんですね・・・。今まであんまり考えたことなかったや・・・。」
スタンにしてみれば、母を亡くし、父とギクシャクしてからここ2年、近しい人から分かりやすく心配されるという経験を久しくしていなかった。マヤの心配故の怒りを、どう受け止めれば良いのかよく分からなかったのだ。
『・・・ね、スタンさ。』
先ほどまでゲイリーと盛り上がっていた様子から一転、真面目な声でマリアがスタンに語りかける。
『ワタシもね・・・、すごく心配だったよ、みんながちゃんと帰ってこれるか。また、みんなと話せるか・・・。怖かった。怖かったんだよ・・・。』
だんだん声が涙ぐむマリアに少しぎょっとしたスタンだったが、まっすぐな思いを感じて黙って聞いた。
マリアも明るく振る舞ってはいても、一人残され不安だったのだ。
『けがするってどんな感じか分からないけどさ、痛いんでしょ?ひどいときは死んじゃうこともあるんでしょ?そんなの、目の前で見てたら、きっと辛いよ・・・。待ってるよりももっと辛いよ・・・。』
マリアは自分の気持ちと同時に、マヤの気持ちも代弁しているようだった。
『・・・だから、今度は絶対付いてくよ。待ってるだけもヤダ。見てるだけもヤダ。ワタシを置いて無茶すんな。バカ・・・。』
最後はマリアらしい締めになって、スタンも少し笑ってしまう。が、それは泣き笑いだった。
「悪かったな、マリア。・・・改めてマヤさんにも謝らなきゃな・・・。」
ソーレンとゲイリーは年長者として、2人のやりとりを黙って見守っていた。




