↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/70

第34話 無茶な脱出

 研究所内には3棟の建物があった。警備兵から見えないよう物陰に隠れながら、一番大きな建物を指さし、マリットが囁く。

「あれだな。空調の室外機が一番多いし、引き込まれている通信ケーブルの数、アンテナから見ても、あそこに重要なPCが保管されている可能性が高い。」

 幸い建物の入り口は詰め所の方から見えない位置にあった。2人は入り口横に走り寄っていく。

 入り口の電子ロックを外すため、スタンは手早く機器を取り付け、ものの数十秒で解錠に成功した。

「さすがだな、悪ガキめ。この国の未来も明るいよ。」

 マリットが皮肉かジョークかよく分からないコメントで褒めたたたえつつ、静かに建物内へ入っていく。スタンも後に続いた。

 奥へ進むと、いくつかのディスプレイとキーボードが並んだ部屋があった。さらに奥の扉に「HPC room」と表示されているので、ここが操作室で、奥がスパコンの入っている部屋だろう。

「私はメインの記憶領域を探る。スタン、君は監視カメラ映像の記録を探して、我々が映っていないか確認し、映っていたらごまかしてくれるか?」

 ザックからノートPCを取り出して接続作業を進めながら、マリットが指示を出す。

「オーケー。」

 スタンも応えて同じように接続作業を進めた。

「あ、やっぱり俺たち映ってますよ。1時間前の映像を1時間分ループさせておきます。」

 監視カメラのデータ保存領域を見付けたスタンは、自分たちの痕跡を消すための細工を始めた。

「うむ、それでいいだろう。こっちも、それらしいファイルを見付けたぞ。『Record”A”』。記録された年月日は・・・、51年前から6年間か・・・。忌まわしきAI災害の前後だな・・・。コピーしよう。」

 マリットも手早く仕事を進める。間もなく、それぞれの作業が完了した。PCに熟練した2人は職人のような鮮やかさで仕事を終え、顔を見合わせてにやりと笑った。

「さて、用は済んだ。ずらかろうか・・・。」

 マリットはノートPCをしまい始めるが、スタンは少し考えるそぶりを見せた後、何やら作業を続けた。

「どうした?長居は無用だぞ。」

「ちょっとだけ・・・っと!」

 タタンッと小気味良くキーを叩いて、スタンはノートPCを閉じた。


 建物から出た2人はしかし、出入り口へ向かって動くことは出来なかった。

 警備兵達の一部がすでに詰め所へ戻り始めていたのである。誰もいないはずの研究所内部からスタン達が現れては、さすがに言い訳が出来ない。

 外に出るためのルートは出入り口以外他になく、周囲は鉄条網付きのフェンスに覆われている。傷を負うことを躊躇しなければ、フェンスに上って乗り越えることも出来るだろうが、齢60を超えたマリットには素早く上りきるということが厳しいだろう。

「どうするか・・・。このままでは閉じ込められるな・・・。」

 マリットが顔を曇らせていると、おもむろにスタンが服を脱ぎ始めた。

「!?何をやっとる?」

「何とかします!」

 説明する間もなく上半身裸になったスタンは、警備兵達から死角になっているフェンスに走った。丸めた服をフェンスの向こうに投げると、素早くフェンスを上り始める。鉄条網に体をこすり、いくつも傷を作りつつ、研究所の外に飛び降りた。裸になったのは服を破かないためだったのだろう。

 そのまま先に投げておいた服を着ると、警備兵に見えないように車に乗り込む。マリットはスタンだけでも研究所の外に出られたことにほっとしながらも、肝心なデータの入ったノートPCを置いていっていることに歯がみした。

 しかし、スタンは自分だけ助かるために行動したのではなかった。車に乗り込んだスタンは、助手席の発煙筒を取り出し、着火した後、思い切って煙の吹き出し口を腕に押しつけた。

「ぎゃあああああああああっ!」

 演技ではなく、腕のやけどの痛みによって、本気で出た叫び声だった。車から転げだし、発煙筒を放り投げる。詰め所付近を目がけて。

「熱い!痛い!助けて!!」

 詰め所の周りを立ちこめる発煙筒の煙に加え、スタンが大げさに助けを求めるので、詰め所に戻っていた警備兵も何事かと様子を見に出てきた。


「・・・!まったく!腹の据わったクソガキめ!」

 スタンの意図を理解したマリットは荷物を持って可能な限り素早く、警備兵が離れた詰め所脇の出入り口を抜け出し、死角から車に乗り込んだ。

 出来ることなら、自身を省みずマリットが抜け出すために動いたスタンをすぐに介抱してやりたい。しかし、今マリットが車から現れれば不自然極まりない。

 スタンへの感謝、しかし自身の身を傷つけることを厭わない蛮勇を叱りつけたい気持ち、そしてスタンのように身軽に動けない老いた自分への憤り。様々な感情に耐えながら、身を潜めるしかないマリットだった。


 車外ではスタンが、警備兵やマヤ達に手当てをされながら、

「発煙筒で遊んでて、うっかり自分の腕に当たってしまって・・・」

と、弁解をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。