第31話 電波圏外
相変わらず荒野が続く中を車は走る。後20kmほどで、目的地の『旧クラッグフェル空軍研究所』が見えてくる所まで来ていた。
自分の姿を得て上機嫌なマリアは、画面の中、オーバーアクションでお気に入りのアニメについて気持ちよく話し続けていた。
『でさー、やっぱりあのシーンは・・・』
マリアの声が突然途絶えた。
「?・・・マリア?」
スタンがウェアラブル端末の画面を確認すると、おかしな表情でマリアの顔が停止している。
「む、マズいな。この辺りは電波圏外になるんだな。衛星通信でないと繋がらんだろう。」
マリットが自分の端末を確認しながら言った。
『何?今、ワタ・・・』
一瞬電波が繋がり、マリアが話そうとするが、またすぐに途切れてしまう。そして、また画面のマリアは顔芸である。
「プッ・・・!」
スタンは思わず吹き出すが、マヤが冷静に提案した。
「笑ってもいられないわね。・・・マリアちゃんのサポートがないとなると、ちょっと作戦を考えた方が良いかもしれない・・・。」
一行は少し引き返した所にある集落で相談することにした。
『もー!せっかく一緒に行けると思ってたのに!』
とりあえず腰を落ち着けるために入ったモーテルで、早速マリアが先ほどの事態に不満を述べる。
「・・・単純に衛星通信に切り替えちゃダメなのか?」
ソーレンが聞くが、
「ダメだな。衛星通信は政府にモニターされとる。怪しまれたら一瞬ですべて筒抜けになる。」
マリットが簡潔に問題点を説明する。この国では安全保障上の問題から、個人の衛星利用について、常時一定程度の監視追跡措置が取られるようになったことが、数年前にニュースで報じられていた。
「端末にマリアちゃんのデータを載せ替えて持っていくのは・・・」
通信が難しいという課題に対し、マヤも意見を出す。
『それで、付いていくことはできるけど、かなりのスペックが必要だよ?端末程度じゃ難しいよ。』
「だよなあ・・・。」
すぐにマリアが目的に対し意味を持たないことを伝える。それはスタンも予想したことだった。
「どーするよ?やっぱりマリアちゃんの力なしじゃ無理か?帰る?」
行き詰まったかに見える話し合いにソーレンが泣き言を言う。
「まあ、待て。」
マリットがにやっと笑いながら言った。
「マリア君の力を知って、考え、工夫することを忘れたのか?ソーレン。今こそ我々『エクスキタティ』の組織力の見せ所だ。」
そう言いながら、マリットは、いずこかへ電話をかけ始めた。
「・・・やあ、ゲイリー。マリットだ。いきなりで悪いが協力を頼みたい。詳細はいつもの所へメッセージで送る。」
通話の中で出た名前を聞いて、ソーレンの顔色が明るくなる。
「なるほどな!あのおっさんなら、いろいろ手は持ってそうだ!」
ゲイリー。スタンは知らない名前だ。スタンの表情から察したのか、マヤが説明してくれた。
「ゲイリーは、『エクスキタティ』の仲間よ。退役軍人のパイロットで、荒事には頼りになるのよ。」
マリットがゲイリーへのメッセージを打ち込みながら、確認する。
「現地で有線接続さえしてしまえば、何とかできるだろう。そのために、研究所に忍び込む隙を作ってやろうじゃないか。」
これから違法行為をすることになるだろうに、マリットは実に楽しそうに話す。
『・・・マリットさんって、若い頃はスタン以上に無鉄砲だったんだろうなー。』
とマリアは呟いた。




