第30話 彼らの生業
スタンを加えたマヤ達「エクスキタティ」一行の車は、照りつける太陽の下を走っていた。
旧クラッグフェル空軍研究所まで、拠点の農場から車で2日。1日目はまだ町の中の道路を走ることが多かったが、2日目になると、周りに人工物はどんどん減っていき、今や一面の荒野である。
変わり映えのしない景色と、限られた車内空間の中での2日目。はじめのうちは元気に話していたマリアもすっかり言葉少なになっていた。
ぼんやりと、今ごろ学校はどんな様子だろうかと考えていたスタンが、ふと思い立ち聞いた。
「そういえば、マヤさん達って仕事とか、どうしてるんですか?」
政府から隠れた地下活動と言えど、生活はせねばなるまい。どんな形であれ、金を稼ぐことは必要なはずだ。今現在のように平日の昼間に調査へ向かうことができる仕事とはどんなものなのか、あるいは仕事以外に金を稼ぐ方法を持っているのか、素直に疑問だった。
「私はフリーランスでグラフィックデザイナーをやってるわ。パッケージデザインとか、雑誌の紙面デザインとかね。仕事はある程度調整できるから。」
助手席のマヤが答えた。いかにもマヤの外見に似合う仕事のようにスタンには思われた。マリアも興味を持ったようで、
『へぇ、かっこいい!今度、どんなの作ってるのか教えて!』
と、食いついた。
「ありがとう。でも、よくそう言われるけど、実際はPCに向かって作業してるか、電話で打ち合わせしてるかぐらいのものよ。」
制作物が世に出る仕事だったので、スタンは気になって聞いた。
「そんな、目立つような仕事していて、大丈夫なんですか?『調停者』に見つかるんじゃ・・・?」
「大丈夫さ。」
マヤに変わってマリットが答えた。
「はっきり『調停者』に追われているのは『エクスキタティ』では、私ぐらいだよ。ちなみに私は偽名を使って、フリーのプログラマとして糊口をしのいどる。全部オンライン受注でな。」
「そうなんですね。意外でした・・・。」
政府に反する活動をしているからには、もっと日常的に隠れて生活をするような感じだろうと想像していたのだ。
「言ったでしょう。私達は真実を知りたいだけ。そのために仕方なく法に触れてしまうことはあっても、基本は真っ当に生きてるのよ。それに・・・近づきすぎて、『調停者』の手に落ちれば、消されるか、別人のように変えられてしまうのだから・・・。」
マヤの言葉に、少し重い空気になる車内。「エクスキタティ」の内情は、思った以上に普通で、思った以上に「調停者」の恐ろしさを感じるものだった。
『ソーレンは映像作家だもんね!最近はどうなの?監督!』
空気を変えようとしているのか、マリアが運転席のソーレンに話を振った。単純に彼の映像作品が気になるというのもあるのだろう。
「・・・・・・てんだよ。」
『え?何?』
「干されてんだよ!ちくしょうめ!!ダチが殺られた企画以来、まともな映像作品の話なんて来やしねえ!ちまちま短い企画映像やCM素材作ってるだけだよ。ったく!」
自分の作品を思うように作れない環境に、よほど溜まっているものがあるのだろう。ソーレンはハンドルを握りながらまくし立てた。おかげで車が揺れてスタン達は慌てて体を支えることになった。
『えー!すごいもったいない!ソーレンの作るアニメ、もっと見たいのに!』
「ありがとなあ、マリアちゃん!俺はやるぜ!絶対またメガヒットするような作品を作ってやるよ!・・・そうだ、うれしいこと言ってくれちゃうマリアちゃんにプレゼントがあるぜ。」
『え!?なになに?』
急にそんなことを言い出すソーレンに、マリアがわくわくした様子で聞く。
ソーレンは車を一度停車させ、端末を取り出して、何やらデータをローカル通信で共有しているようだった。
「オッケー。ほら、このデータ見てみてくれよ。夕べのモーテルでよ、暇だったから描いてみたんだ。マリアちゃん声だけだろ?イメージにどうかなって。」
『なにこれ!?可愛い!!』
ソーレンとマリアだけで話が進んでいるので、スタンは気になり聞いた。
「一体何なんだよ、マリア。何かデータをもらったのか?」
『超すごいんだよ、スタン!ソーレン、ありがとー!!・・・そだ、ちょっと待っててよ・・・。えーと、こんな感じ?かな?えい!』
マリアのかけ声と共に、スタンのウェアラブル端末に少女の顔が映った。明るい茶色の髪に、大きな瞳。にこにこと元気そうな笑顔。
『どう?良い感じでしょ?超可愛いよね!美少女だよね!』
画面に映る少女はマリアの声に合わせて口を動かした。今まで声だけで会話していたマリアが、目に見える姿を獲得したということがスタンにも分かった。
「さっすがだな。マリアちゃん!もうそんな風に動かせちゃうのか!」
ソーレンも画面上で動き出したマリアの姿に驚く。
「なるほど。ソーレン、やるじゃない。マリアちゃんの姿をデザインしてあげたのね。いいわね。とっても可愛い。」
「さすが映像作家だけあるな。しかし、そんな風にアニメーションにして動かしているのはマリア君だな?まったく本当に、君のすることは興味深い・・・。」
マヤとマリットも感心している。
『スタン、ほらほら。みんな褒めてるよ!スタンはどうよ?』
あからさまに賞賛を要求してくるのに少し辟易とする気持ちはあるものの、スタンは照れながら素直に答えた。
「・・・可愛いんじゃないか?」
『だーよねえ!!ありがと!』
勝ち誇ったように、にんまりと笑いながらマリアは言った。
こうしてマリアは、自分の姿を手に入れたのだった。




