第27話 二人の決意
結局、ウォズの残したメッセージを各々が消化するためには時間が必要で、本格的に今後について考えるのは明日以降ということになった。
ウォズの死がおそらくほぼ確定したことは昼食時にローサにも伝えられた。
彼女は一言、
「そうか・・・。もうウォズにウチ特性のペペロンチーノは作ってやれないんだねえ・・・。」
と、寂しそうに呟いた。
午後の時間は自由になったので、スタンは匿ってもらう恩義に少しでも報いようと、ローサの農場の仕事を手伝うことにした。
初夏の農場の作業はオリーブの剪定とサマーオレンジの収穫。慣れない農作業にはじめは手間取ったスタンだったが、作業を進めるうちに、マリアが剪定するべき枝の特徴を覚え、スタンの判断を補助するようになった。
『違うって、スタン!その枝は切っちゃダメだって!こっちの内向枝を切らなきゃ!人の農場なんだから雑な判断はダメだよ!』
「内向枝なんて言われて分かるか!もうちょっとわかりやすく言えよ!」
ぎゃあぎゃあ言いながら作業するスタンとマリアをローサは微笑ましく見つめていた。
「昔あったっていうAIがどんなものか知らないけど、あんたたちみたいに仲よく話せてるんなら、楽しい世の中だったんだろうね・・・。本当に、何で今、人をどうこうしてまで禁止する必要があるんだかね・・・。」
一瞬切なそうな表情を見せたローサだが、スタン達を暗くさせまいと考えたのか、
「マリアちゃんは、こーんなに素直でかわいい子なのにね!」
と、明るくおどけて見せた。
『だよねー!ローサさんはちゃんと分かってる!誰かさんと違って!!』
「ローサさん、ダメです。コイツ、調子に乗ります!」
スタンとマリアもローサの気遣いを分かり、ふざけて応じた。3人で笑い合いながら作業をし、穏やかに午後の時間が流れていった。
「いやあ、助かったよ。ありがとうね。後で風呂も沸かすけどさ、ひとまずここで顔洗って、汗を流しな。ほら、タオル。」
夕方になり、スタン達は作業を終えた。ローサに庭の一角の水道を示され、スタンはジャブジャブと頭から水をかぶった。日中はそこそこ気温も上がったので、水の冷たさが心地よい。
さっぱりした頭で、麓から吹き上がる風を浴びる。山腹にあるこの農場からは、遠くにスタンの住む町の明かりも確認することができた。
程よい体の疲れを感じつつ、昨日の朝からは考えられない今の状況を振り返り、スタンはどこか夢うつつのような気分になっていた。
『ねえ、スタン・・・。』
不意にマリアが話しかけてきた。
「どうした?」
『ワタシ、思ったんだけどさ・・・。ウォズさんのこと知れて、良かった。・・・マヤさん、マリットさん、ソーレン、ローサさんとも知り合えて、良かった。』
「そうだな・・・。」
スタンは、マリアが何かとても大切なことを感じ取っているように思われて、静かに相づちを打って、彼女が何か言うのを待った。
『自分が何で生まれたかなんて、どうでも良かったし、生きているって、やろうと思ったことができる、ただそういう状態だと思ってたんだけど・・・。なんていうかさ。ウォズさんが自分の命をかけて私の基になる「アレルヤの原典」を守ってくれて、そのウォズさんのことを、マヤさん達が想ってて・・・。』
一生懸命に自分の中から言葉を見付けながら、マリアが話す。
『その・・・、ね。・・・そういうものを引き受ける場所にワタシはいるんだなって・・・。重いとかそういうんじゃなくて、・・・ただの「状態」じゃない、すごいことだなって・・・。「ちゃんと生きなきゃ」って、思ったんだ・・・。』
「そうか・・・。」
スタンはマリアの言葉を聞きながら、自分の父や死んだ母のことを思い出していた。そして、自分の思いを素直に言葉にしているマリアを、少しまぶしく感じていた。
「なあ、マリア・・・。きっと俺たち同じ気持ちだと思うんだけどさ・・・。」
スタンは、自分も決意を言葉にしなければという思いに急かされ、言った。
「最後まで、マヤさん達に付き合おう。俺たちは知らなきゃいけない。」
『気が合うじゃん・・・。』
少し笑いながらマリアが言った。




