第24話 もう一つの遺産
「『エクスキタティ』は『気付いてしまった人々』という意味だ。・・・突然友人や大切な人をなくした数名が、SNS上でグループを作ったのが始まりだそうだ。」
マリットは、自分たちの組織の始まりについてスタン達に説明を続けた。
「はじめは、納得できない思いや悲しみを分かち合うだけの集まりだったが、いろいろな情報・・・行方不明になったり、別人のように変わってしまったりした人間が皆、過去存在したというAIに近づいていたという事実が集まることで、『調停者』の存在が浮かび上がってきた・・・。我々がつかんだ情報が増えるほどに『調停者』側でも警戒を強めていったようだ。何度か危ないこともあったが、秘匿性の高い通信アプリに場を移し、秘密裏に活動を続け、今に至っている・・・。」
マリットの説明を受けてスタンが聞いた。
「それで、あなたたちの目的は何なんですか?」
「私達は知りたいの・・・。なぜ、大切な人たちを奪われないといけなかったのか。政府が何を隠しているのか。黙って納得することはできないわ・・・。ウォズも真実を強く望んでた・・・。」
マヤが静かに答えた。静かだが、強い決意と意思を感じる声だった。
『ウォズって、あなた達「エクスキタティ」の仲間で・・・、その・・・もう、いないんだよね?』
マリアが彼女らしくなく、おずおずと聞く。以前カメラで見た、マヤの悲しそうな表情を思い出していたのだろう。
「うむ。ウォズは『エクスキタティ』の創設メンバーでな・・・。私やマヤが『エクスキタティ』に入ったのは、ウォズに出会ったからだ。しかし彼は・・・3年前の定時連絡で、『調停者』が迫っていることを告げたっきりだ・・・。状況から、すでに・・・もう・・・。私達に追及の手が伸びないように、敢えて助けも求めず、追跡もできないようにして・・・。君がこの館のスパコンを外部ネットにつなぐまで、我々もここの存在を知らなかった。」
マリットの言葉と表情から、ウォズが彼ら「エクスキタティ」の精神的支柱だったことが感じられた。
「おお!そうだよ。いつまでも話してる場合じゃない。夜が明けちまう。俺たちはウォズの残したものを探しに来たんだぜ!」
しばらく静かだったソーレンが、沈んだ空気を破るように、時計を見ながら少し慌てて言った。時刻は午前3時。もう1,2時間ほどで空が白み始めるだろう。
「それって、マリアを生み出したデータのことじゃないんですか?」
スタンが考えを述べる。
「たしかに、それも1つだろう。しかし、ウォズは、必ず他にもメッセージを残してるはずだ・・・。マリア君を生み出したデータは、おそらくウォズが作った物ではない。・・・というか、そんな物作れる人間なんぞ、今の世にはいないだろう。どこかから手に入れたんだ。その手がかりがあると思う。」
スタンはふと思い立ち、アクセスPCに貼ってあった付箋を剥がしてマリットに見せた。
「これなんかは、心当たりがありますか?」
「何だこれは・・・?『アレルヤ』・・・?分からんが、・・・『人類を見守る神』か。フッ、ウォズらしい言い回しだな・・・。何かの符丁だろう。ありがとう。」
マリットはポケットから手帳を取り出し、付箋を挟んでしまった。
『あー、後さあ・・・。』
マリアが口を出す。
『なんか、スパコンの中に残ってるデータ、私以外にはあんまりないんだけど・・・、すごい厳重に暗号化された、「Sociīs 」って名前のファイルがあんだけど・・・。』
「それだわ!」
マヤが大きく声を上げ反応した。
「そこに、ウォズのメッセージがあるかもしれない。ソーレン。」
「オッケー。」
ソーレンが荷物からハードディスクを取り出し、マリットがそれをスパコンに手早くつなぐ。マリットはアクセスPCを叩きながら言った。
「おそらく、このファイルは『エクスキタティ』の拠点でないと開けん。我々は急ぎ拠点に戻る。スタン君達はどうするね?」
「えっ?」
急に聞かれ固まるスタン。
「意地が悪いわよ。マリット。彼らも追われる身なんだから・・・。良ければ一緒に来ない?匿うわ。」
マリットの態度をとがめつつ、優しくマヤが提案した。
『行く行く!』
スタンよりも早く答えるマリアだった。




