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第23話 エクスキタティ

「実に興味深い・・・。では、再び聞くが、お前さんには、本当に「やらなければ」と感じることはないのか?」

『もう、本っ当にしつこい!スタン、このおじいさん何とかして!』


 マリアの正体を明かした後、スタンはこれまでの経緯をマヤ達に説明した。その後始まったのは、マリットからの、マリアに対する質問大会だった。

 AIが人格を持つということがどういうことなのか、本当にマリアは人格として自分の意思を持っていると言えるのか、彼の興味はそこにあるらしい。様々な角度から、いろいろな問いがマリアにぶつけられた。


「あの・・・、そろそろ、その辺に・・・。ああ!こっちの事情は話したんで、あなたたちのことを教えてくれませんか?」

 スタンが助け船を出す。助け船ではあるが、マヤ達についての情報が欲しいのも本心だ。

「ああ、すまんな。私はプログラマーでな。若い頃は哲学も研究しとったから、AIの自己認識がどういうものか気になってしまってな。・・・まさしくその興味が災いして、数年前から『調停者』に追われとる。」

 マリットが答える。先ほどのしつこい質問の原因は、哲学という背景にあったらしい。しかし、スタンが気になったのはその後に出てきた単語だった。


「『調停者』?」

『何なの?それ?』

マリアも興味を持って聞いた。

「君を捕まえようとした先生と男達・・・。おそらく彼らは『調停者』と呼ばれる、政府直属の、現在の社会システムの維持を使命としている連中だ。ヤツらはAIに関する研究や記録、表現活動を許さない。危険だと判断されれば、洗脳に近い思想教育を施されるか、ひどい場合は殺される・・・。」

『ひどい・・・。』

 マリアが呟く。スタンは、戦慄しつつもどこか納得していた。脳に作用するようなチップを使う連中である。必要であれば殺人も辞さないというのは、恐ろしくはあるが、当然のことだと思われた。


「俺の仕事仲間もそれで殺されたんだ、多分。表向きは自殺ってことになってるが、アイツは自分で死ぬようなヤツじゃなかったし、死ぬ動機もなかった。」

 ソーレンが横から口を挟んできた。

「おれはもともと映像作家でな。昔AIがこの世界にあったってことを知ってから、仲間と一緒にそれを題材にした映画を作ろうとしてたんだ・・・。何度も計画が潰されたけど、それでも俺たちは諦めなかった。絶対おもしろいものができるって思ってたからな。殺されたヤツはプロデューサーでな・・・。『絶対予算は取ってきてやるから、お前は全力で良い映像作れ』って言ってたんだよ・・・。そいつが飛び降り自殺なんてするわけねえんだ・・・。」


『え、ちょっと待って?ソーレンて、ビショップ・ソレンセン?アニメ監督もやってる?』

 深刻な空気で話すソーレンにかまわず、突然マリアが聞いてきた。

「お?そうだよ。何?もしかして俺の作品、見てくれちゃってるわけ?」

ソーレンも急にテンションを変えて、マリアに聞き返す。

『見た!見たし、超良かった!「マイ・バディ・アイン」!』

「マイ・バディ・アイン」は、マリアが気に入ったアニメ作品の1つである。言葉を話す犬アインと、少女の冒険活劇といった内容だった。

 具体的な作品名が出てきてソーレンが笑顔で応える。

「サンキュー!うれしいなあ!俺の作品、AIも感動させちゃったんだ!?」

にわかに二人が盛り上がり出す。

「それも興味深いが、後でやってくれ!」

マリットが二人の脱線を制止する。

「まったく・・・。話を戻すが、マヤも、歴史学者だった夫を子どもと共に殺されとる。表向きは不幸な自動車事故ということになってな。AIの歴史記録に近づきすぎたんだ・・・。」

 マヤは俯いて沈鬱な表情をしている。マリットが代わりに教えてくれたのは、おそらく口に出せるほどにも傷が風化していないマヤへの、彼なりの優しさなのだろう。


 スタンが3人それぞれの抱えた事情に言葉を失っていると、続けてマリットは言った。

「我々は『エクスキタティ』。・・・この社会の暗部に触れてしまった者達だ。」 

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