第21話 廃屋への招待
深夜の住宅街を1台の乗用車が静かに走っていく。車には3人の男女が乗り込んでいた。年齢はそれぞれ、30代から60代くらいだろうか。
「マヤ、この先なんだよな。おそらくウォズの隠してた拠点ってのは?」
運転する男性が助手席の女性に確認した。
「そう。もう少し先を右。後はまっすぐ。今もシグナルは定期的に出てるわ。」
答えた女性、マヤは端末に目を落としながら言った。
「さすがだな、ウォズは。私達にも知られずに秘密の拠点に何らかの手がかりを残すとは。」
皮肉っぽく後部座席の60代ほどの男が言った。
「そう言うなよ、マリット。きっと何か本当に重要なものを手に入れたんだろう、ウォズは。だから俺たちにも隠した。それは多分、確実にその重要なものを守るためだろ?」
運転席の男がたしなめる。しかし、後部座席の男、マリットは不満そうだ。
「・・・だから水くさいと言うんだ。みんなに助力を求めれば、一人で死ぬこともなかったろうに・・・。」
マリットの表情は今はいない「ウォズ」への非難というより、彼を救えなかった自身への不甲斐なさ、悔しさが見て取れた。
「・・・まだ死は確定してないわ。・・・それに彼は、意味もなく死ぬ人じゃない。私達がしっかり彼の残したものを引き継がないといけない。それがどんなものであっても・・・。」
マヤは強い決意を秘めた言葉で今のやりとりをまとめる。そして、前方に見えた廃屋を指さした。
「ソーレン、そこよ。」
指示された運転手の男、ソーレンは、ゆっくりと車を停めた。
そのとき、マヤの見ていた端末に、一通のメッセージが届いた。
【ようこそ。ワタシ達はあなた達の敵じゃない。敵対する意思もない。まずは話をしましょう。入ってきてほしい。】
「何・・・これ・・・?」
マヤが端末を見て、驚きの声を上げる。
マヤの持つ端末へは、仲間以外のメッセージはどうやっても送信できないように設定されているはずだ。アドレスも秘匿性を高める対策をしている。にもかかわらず、このようなメッセージを送ってこれるなど、どう考えても普通の相手ではない。
「何だよ・・・?えっ!?・・・・・・おいおいおい、これ、ヤバいんじゃないか!?」
ソーレンが運転席から画面をのぞき込み、慌てた声を出した。それを聞いて、後部座席のマリットも身を乗り出してマヤの端末の画面を確認する。
「これは・・・、『調停者』側の罠か?」
マリットも緊迫した雰囲気になる。もしこれが罠だとしたら、最悪の場合、すでに囲まれていたり、自分たちの拠点の場所も割り出されたりしている可能性もある。
「・・・もし本当に罠なら、もう俺たちおしまいじゃないか?」
ソーレンがうろたえだす。
「慌てないで。・・・罠ならわざわざメッセージを送る必要もない。やるとなったら、躊躇なく、前触れなくやる。それがヤツらでしょう?」
マヤは二人を落ち着かせるように静かに、しかし苦々しい表情で吐き捨てた。
「そうだな。もっともだ。」
マリットも納得して、ため息を吐きながら言った。
「とにかく、行ってみるしかあるまい。」




