第2話 少年の憂鬱
法に抵触するおそれがあることは分かった上で、周囲の目をごまかしながら続けていた手前、はっきり「違法」と言われてしまうとスタンは反論することができない。目線を落とし無言を貫くスタンに対し、トレイス教諭は容赦なく続ける。
「とにかく、もう君の活動に学校のPC室は使わせられないし、教師としては開発中のそのプログラムの凍結を命令させてもらいます。君を前科者にはしたくない。今ならまだ引き返せる段階です」
「・・・分かりました。・・・すみませんでした」
厳しさの中に、「自分のことを思ってくれている」という思いも感じ、スタンは引き下がるしかなかった。トレイス教諭のお説教に素直に応じた後は、すんなりと帰宅を許可された。むしろ、帰るしかない状況になった。
スタンの通う高校では、生徒各々が希望する課外活動のクラブに所属し、放課後に学校の設備を使用することができた。ただ一人のPC部員であったスタンは、これまで課外活動の統括責任者であるトレイス教諭と直接交渉しながら学校のPC室を使用してきた。
学校のPC室は、特別教室として構えるにふさわしく、個人用モデルでは太刀打ちできないほどの高性能コンピュータを備えている。スタンとしてはその性能を当て込んで開発の計画を立てていたので、PC室が使用できないのは死活問題だった。開発を続けるのであれば、別の方法を探す必要があった。つまり、命令に従うような気持ちはチリほども持ち得なかったのだ。
とは言え、そのような高性能のコンピュータが使える場所のアテは、彼には学校以外にない。トレイス教諭に開発を知られた以上、今後は目立つ行動もできない。考えれば考えるほど、自宅へ向かう足取りは重くなる。スタンは、学校からの帰り道を目的もなく遠回りしながら歩いていた。
「やっと、決まり文句じゃない、人工知能自身が思考して答えるモデルができそうなんだけどなあ・・・」
今回の開発にスタンは入れ込んでいた。幼い頃に祖父の話を聞いて以来、かつてこの世界に存在したという会話型AIの制作に打ち込んできた。初期はあらゆるケースを想定して応答をプログラムするところから始まったが、すぐにそれはただの入力に対応した「反応」に過ぎず、思考を伴った「応答」ではないと気づいた。その上、多くのケースを想定したプログラムの手間があまりにも大きすぎた。
そこで、コンピュータ自身にインターネット上の様々な具体的ケースを学習させ、その全体的傾向から最適な答えを判断させようと考えた。自分のアイディアを学校のスパコンで試せば、今まで自分が作ってきたものとは比べものにならないものができるという強い確信があった。
これは、かつて「ディープ・ラーニング」と言われた技術に類するものになるのであるが、スタン自身はそのことを知らない。政府によりそのような技術史は封印され、今や市井では知っている人間はわずかである。
「はあ」
やり場のない思いからため息が漏れる。
彼を悩ませているのは開発が困難に直面していることだけではなかった。課外活動ができなくなり、早く帰るようになると、あの家にいる時間が増えるであろうこともスタンを憂鬱にさせた。




