第18話 上辺の対話
「・・・あなたが学校で、周囲には電話と言ってAIとの会話を始めてから、電話回線とSNSの監視をしました。そうしたら、通話状態になどなっていないではないですか。あなたがやろうとしていたことと合わせて考え、おそらく自分でAIを完成させてしまったのだと考えました。」
トレイスはスタンをベンチに座り直させ、淡々と述べた。
「もう間もなく、迎えの車が来ます。それで、あなたの認識を正してくれる施設に連れて行ってもらいます。・・・後で、自宅のPCも調べさせてもらいますね。」
スタンは黙ったまま、トレイスの話から今の状況を分析していた。
どうやら、スタンに関する監視はネットワーク中心で、それほど厳しい物ではなかったようだ。トレイスは廃屋のことや、マリアの本体データがスパコンにあることも、まだつかんでいないのだろう。
しかし、このまま連れて行かれて、さらにいろいろ調べられれば、全てばれてしまうのは時間の問題である。何とか逃げる手段を考えなければならない。
そのとき、スタンの腕のウェアラブル端末が、スタンにだけ分かるように弱いバイブレーションで震えた。おそらくマリアだ。
スタンはトレイスが別の方を見ていることを確かめてから、それとなく腕の端末に目を落とした。メッセージが流れてくる。
【アイツ、超ムカつく!】
【手錠のロックはハッキングできたから外せそう。】
【後、この男達、多分体の中に、何か通信機能付きの補助チップみたいのがある。】
【そっちもハックできてる。】
【過電流起こしたら、体の動きもある程度止められるかも。】
【合図出してくれたら、いつでもいける。チャンスを見計らって!】
スタンは頷いてトレイスの様子を注視した。
トレイスは時折時計を見ている。もしかしたら、想定したよりも迎えに来るという車が遅れているのかもしれない。そこで、スタンは試しに声を掛けることにした。
「迎えって、後どれくらいで来るんですか?」
「?なかなか肝が据わってますね。スタン君。不安にならないんですか?」
トレイスは感心したように言った。
「不安だからこそ、聞いてるんですよ。僕が連れていかれるのはどんなところなんです?」
そうなる前に逃げ出すつもりではあるが、実際に気になることでもあった。
「なに、乱暴に扱われることはありません。しかし、保証しましょう。施設で特別なカリキュラムを受ければ、あなたはもう、AIを作ろうなどとは考えなくなる。お父さんとの平和な生活に戻れます。」
ゆったりと自信をもって話すトレイスの様子に、スタンは安心よりもむしろ、うすら寒さを覚えた。
そんな風に人間を変えてしまうような所、絶対に行ってなるものかという思いを隠して、スタンは言った。
「どんな風に言われたって、こうして、ただ待たされていると不安になるばっかりですよ。まだなんですか?」
「まったく・・・。我慢が利きませんね。まあ、だからこそ私が止めてもAIを作ってしまったんでしょうが・・・。いいでしょう。ちょっと電話してきます。」
そう言ってトレイスは端末を取り出しながら、少し離れたところへ歩いて行った。それを見送り、スタンはウェアラブル端末のカメラレンズを見て呟いた。
「今だ。」




