第17話 露見
「トレイス先生。あー・・・、これは、ちょっと遠くの友達と通話してて・・・。」
スタンは慌てて端末をポケットにしまい、何とか言い訳して切り抜けようと試みるが、トレイス教諭が遮った。
「白々しいことは、もう言わなくてよろしい。・・・すべて、分かった上で、今あなたに改めて聞きます。それは、会話ができる人工知能、ですね?」
スタンは、これはごまかせないと思い、見逃してもらう方向にシフトしようと考えた。
「そうです・・・。でも、聞いてください。AIは禁止されなきゃいけないような危ない物じゃないんです。先生もこいつと話してみれば・・・」
「残念ながら!」
制止するように、トレイス教諭は一際大きな声でスタンを黙らせ、告げる。
「・・・もう、そういう次元ではないんですよ。」
スタンは得体の知れない恐ろしさと違和感を感じていた。それは、教師が問題行動を起こした生徒を叱る場面と言うにはあまりにも・・・、あまりにも凄みと覚悟を感じさせる雰囲気だった。
スタンが二の句を継げずに立ち尽くしていると、左右から、スタンを挟むように2人の男達が表れた。
2人ともスーツを着て感情の読み取れない表情をしている。
「確保してください。」
トレイスがそう言うと、男達は素早くスタンを取り押さえにかかる。必死に振りほどこうとするが、男達の力は強く、スタンは電子式の手錠を嵌められてしまった。
「ちょっと・・・!何なんですか!?これ!」
拘束されながらスタンは、精一杯の抗議の声をトレイスにぶつけた。
「安心できるかは分かりませんが、その方たちは警察ではありません。これから、あなたには、危険な考えを忘れるために、ある施設に入ってもらいます。」
「施設って!?」
時折もがこうとするスタンに対し、トレイスは余裕を持って答えた。
「実はね・・・あなたのように危険な考えを持った人間を救うために、特別な仕事をしている人間がいるのです。私もその一人。・・・大丈夫です。その施設で正しい教育を受け、正しい認識を持てるようになれば、危険なAIなど、廃棄するべきだと気付くことができます。」
『随分な言い方してくれるじゃん!スタンを放せ!このおっさん!』
スタンのポケットの端末からマリアが叫んだ。
「品がないのはこれですね・・・。」
と言いながら、トレイスはスタンのポケットから端末を取り出すと、地面にたたきつけた。端末は画面が割れ、バッテリーが外れて沈黙した。
「ああ!?」
端末を壊され、スタンは怒りとも絶望ともとれるような声を上げた。
「メモリの分析は多少こわれていてもできますからね。後で、問題のないデータは新品の端末に移して返してあげますよ。」
トレイスはにっこりと微笑みながら言った。
そして、おもむろに自分の端末を取り出し、いずこかへ電話を掛ける。拘束されたスタンは、トレイスをにらみつけることしかできなかった。
「・・・あ、お世話になっております。私、トレイスです。スタン君を見付けました。少し興奮しているようですので、お話しした通りに。はい、お任せください。責任を持ってお預かりします。」
電話を終えたトレイスに、スタンは問いかけた。
「・・・今のは、もしかして父さんに?」
「はい。お父さんには、あなたが落ち着いてお父さんと話ができるようになるまで、専門の機関で入院カウンセリングを受けさせることを勧めました。はじめは『自分で話したい』とおっしゃっていましたが、じっくりお話ししたら分かっていただけました。あなたの現状について少し大げさに問題点や不安を伝えてしまいましたが・・・、まあ必要悪として許容してもらいたいところです。」
多少の嘘が心苦しい、とでも言いたげに、トレイスは困ったように微笑んだ。




