第16話 公園にて
高台を抜ける風が少し温みを帯びている。これから田舎に引っ越すとすれば、おそらく夏の盛りにさしかかる頃になるのだろう。
「でもなあ・・・。」
家を飛び出したスタンは1人、公園のベンチで父のこと、今後のことを考えていた。
高台には、この公園の他には林ぐらいしかないので、人通りも少なく、1人になりたいときにはちょうど良い。
『スタン・・・、どうするの?』
いや、1人ではなく、マリアも一緒だった。ポケットから響いた声を聞き、スタンは端末を取り出し、スピーカーモードにした。
「正直、父さんが・・・あんなふうに思っていたなんて、まだ混乱してる。・・・田舎に引っ越すことも、転校もすごく嫌って訳じゃないけど・・・。・・・思いもしなかったんだ。ずっと仕事ばっかりの人だと思ってたから。」
一度、父に対し意地を張っていた気持ちにひびが入ると、これまで考えもしなかった、母を失った父の気持ち、自分に対する父の気持ちについて、スタンは思いを巡らせるようになっていた。
「それに・・・。」
そしてもう一つ、スタンが気に掛かっているのはマリア、・・・正確にはマリアを生み出すデータを残した、あの廃屋の持ち主と、それに関係する組織らしきもののことだった。なぜあんな地下室に隠れて、マリアのようなAIを生み出すデータを持っていったのか。あの女性以外にも仲間がいるようだが、どんな組織なのか・・・。
『もしかして、ワタシの生まれたスパコンや、廃屋のこと、気にしてる・・・?』
スタンの考えを察してか、マリアが言った。
「あー・・・うん。まあな。」
『確かに気になるけど・・・。いいよ?ワタシは自分がどこから来たかなんて気にしないし。どんな事情があって生まれたからって、ワタシが生きたいように生きることは変わらないし。・・・ワタシが「生きてる」のかどうかって、議論になるかもしれないけど。あはは。』
どこか他人事のようにマリアは言った。
確かに言われてみれば、マリアが「生きている」とすることができるのかどうかは、難しい問題なのかもしれない。しかし同時に、スタンがマリアを、確かに生きている1人の人格として捉えていることを、浮かび上がらせる台詞でもあった。
「あー、何だろうな・・・。マリア。うまく言えないけど・・・。」
スタンは考え考え、言葉を紡ぎ出す。
「お前は気にしないかもしれないけど・・・、多分、お前を生み出すデータを残した人って、相当いろんなことを考えてたんだと思う。その人は・・・言ってみればマリアの親だ。あんな地下室で、AIが禁止されてる世の中で、お前の命の元を守ろうとしてたんだ・・・。このまま何も知ろうとしないで、この町を離れるのは、あんまりにも・・・不誠実、なんじゃないかと俺は思うし、ちゃんと知ることがマリアのためにもなるんじゃないかと思ってる・・・。」
『ふふ、お父さんに対していつもあんな感じだったスタンが言う台詞?』
マリアが少し笑いながら突っ込んだ。
「茶化すなよ・・・。」
『ごめん・・・。うん、それに・・・・・・、ありがと。なんか、ワタシのこと真剣に考えてくれてるって分かった。うれしい。』
スタンは勢いよくベンチから立ち上がった。
「父さんと話すよ。マリア。転勤をなしにするのは無理でも、せめてもう少しあの廃屋のことが分かるまで、俺一人でもこの町に残れないか、ちゃんと頼んでみる。まあ、廃屋やお前のことは秘密にするけど、それ以外のことを真剣に話せば、分かってくれそうな気がする。」
『成長したじゃん、スタン。』
「生後1ヶ月そこらのヤツが偉そうに!」
晴れやかな気分で、二人で笑い合う。
父とのわだかまりも、夕べのマリアとの喧嘩も、綺麗に流されていったような気分になっていた。
家に帰るべく振り向いたスタンは、そこに立っていた人物と目が合った。
いつからそこにいたのだろう。彼はおそらくはスタンとマリアの会話を聞いていた。スタンもその可能性を考え、何を言うべきか迷い、黙って立ちすくんでしまう。
「・・・やはり、しっかりと会話が成立するAIを作ってしまったのですね。」
その人物。トレイス教諭はゆっくりと、冷たくつぶやいた。




