第15話 わだかまり
「おう、帰ったか。」
公園から帰ったスタンに、先に帰宅していた父は声を掛けた。スタンはつとめて素っ気なく、「うん」とだけ返し、自室に向かおうとした。
「明日なっ・・・!」
いつもはそのままスタンを見送る父が、少し力を込めてスタンの背中に呼び掛けた。
「明日?何?」
スタンは足を止めて父の言葉を待った。
「明日、学校休みだろう?ちょっと・・・、話したいことがあるから、午前中は出掛けずに家にいろよ。」
「・・・・・・分かった。」
珍しい父の申し出に動揺したのか、自分でもすんなり受け入れたのを意外に感じながら、スタンは再び自室の方へ体を向けた。
『何か、複雑な気持ちがあるんだよね。スタンとお父さんって。』
自室に入ってしばらくして、マリアが話しかけてきた。
「何だよ。別に何でもないよ。」
『お父さんって、どういう感じなのかよく分かんないけど・・・、スタンも、もう少し素直になっても良いんじゃないの?』
「うるさいな。デリカシーないぞ、お前。」
ぶっきらぼうにスタンは言うが、自分が子どもっぽいことをしているとは分かっていたので、マリアに対し気恥ずかしさと罪悪感があった。
『ひっどい。・・・・・・絶対素直になった方が良いと思うのに。』
マリアも親子の問題に立ち入りすぎたと感じたのか、それ以上何か言うことはなく、その後は言葉少なだった。
2人の間で軽い言い合いはこれまでもあったが、少しギクシャクした空気の流れる夜となった。
翌朝、朝食を終えて食器を片付けた後、父がおもむろに口を開いた。
「実はな・・・。父さん、田舎の方に転勤の話が来てる・・・。受けようと思ってる。」
ちょっと真剣味の強い説教程度だろうと考えていたスタンは予想外の父の言葉に思わず声を上げた。
「えっ!?・・・・・・ここから、引っ越すってこと?」
「そういうことになる。転勤先では今よりも勤務の時間を減らせるらしい。待遇も変わらないままな。・・・考えてみれば、これまで、父さん仕事ばっかりで、お前のこともほっぽってた。母さんがいなくなってから、お前だって辛かったはずなのにな。悪かった・・・。」
自分に対し頭を下げる父など見たことのなかったスタンは、驚くと共に、まっすぐに自身の気持ちを話してくれたことに、少しうれしさも感じているのを自覚していた。
しかし、引っ越しは話が別だ。
「ちょっと待って!いきなりすぎて訳が分からないよ。俺だって今の学校があるのに!」
「・・・その学校で、違法なプログラムを作ろうとしてたらしいじゃないか。」
父が鋭く、しかし心配そうな表情で言った。
「・・・トレイス先生から聞いたぞ。もう少しで警察の世話になるところだったって。」
「それは・・・。」
トレイス教諭に注意されたことを父が知っていて、スタンはひるんだ。
あの場で完結した話だと思っていたのに、まさか父にまで連絡されているとは。
「父さん思ったんだ・・・。親としての務めを全然果たしてなかったって。お前の行動を責める資格は父さんにはないかもしれない。でもな・・・お前には真っ当に大人になって、幸せになってほしいんだよ。環境を変えて、親子でやり直さないか・・・?」
真剣な言葉に戸惑うスタンだったが、急に生活を変えるような父の提案をすぐに受け入れることはできなかった。
・・・だから、ひとまず逃げることにした。
「おい!スタン!!」
父が止める声を振り切って、スタンは黙ったまま家を飛び出した。




