第13話 シグナル
「さて、帰るか。」
廃屋のスパコンを外部のネットワークにつなげた後、帰り支度を整えてスタンは言った。
『うーん、そう、だね・・・。』
歯切れの悪いマリアに、スタンは少し慎重になって聞いた。
「まだ、何かやりたいことがあるのか?それとも、俺のアカウントに、他にも怪しいハッキングの跡でもあったとか・・・?」
『ううん。そういうわけじゃないんだけど・・・。何か、ここのスパコンから外部に向かってと、外部からここのスパコンに向かって、信号みたいなものが双方向に出てるっぽいんだよね。すごい小さいシグナルだからなかなか気付かなかったけど・・・。』
「それって・・・・・・、もしかして、この廃屋の持ち主か、その関係者か・・・?」
スタンはすっかり我が物のように使っているが、当然この廃屋はもともとの持ち主がいたはずなのだ。そして、無人にもかかわらず維持された自家発電システム、偽装された消費電力、地下室に隠されるように置かれていたスパコン。元の持ち主が変わり者だったというだけでは説明として苦しい。
これまで薄々感じていたことを整理し、スタンが考えたのは、この廃屋が何かしらの組織の持ち物であり、外部のネットワークに接続したことで、その組織がこの廃屋に動きがあったことに気付いたのかもしれない、ということだった。
『どうする?スタン。とりあえずスパコン側の信号を切っとく?』
「いや、下手に動くのも、相手に何かあると思わせるかもしれない。今は・・・できるだけ、俺の痕跡を消してこの廃屋を出るだけにしとこう。」
スタンは残しておこうと考えていた荷物も全てまとめ直し、ドアノブや手すりなど、自分がさわっていそうな場所をざっと拭き上げた。
一通りの痕跡消しを済ませ、いざ廃屋を出ようとしたとき、マリアが言った。
『スタン!スパコンからのシグナルを受信してる端末が、ここに近づいてきてる!あと5㎞くらい!移動速い!多分自動車!』
「えっ!?そんな、早くしないと・・・!・・・・・・いや、待てよ・・・?」
もう荷造りも痕跡消しも終わっている。5㎞と言えど、廃屋周りの区画は入り組んでいるので、到着までまだ5分以上の余裕はあるだろう。
「マリア・・・、この廃屋にお前を生み出すデータを残したのが、どんな連中か、見てみたくないか?」
『!スタン・・・。アンタって本っ当に無鉄砲だよね・・・。』
言葉ではそう言いつつも、マリアの声にもスタンと同じように、どこか挑戦的な、事態を楽しむ響きがあった。




