第12話 共犯の二人
「よし、これでどうだ?」
あの廃屋の地下室で、配線作業を終えたスタンは、マリアに聞いた。
『うん、良い感じ。玄関ドアがすっごい軽く大きくなった感覚。』
よく分かるような、分からないような例えでマリアが答える。
マリアが生まれて1ヶ月ほど。
これまでモバイルルーターで廃屋のスパコンとスタンの端末を繋いでいた。しかし、マリアが『移動が窮屈』と言い出したので、スパコンから直接有線でネットと繋げるようにしたのだ。
これからは今までより比較的自由にネットワーク上を移動できるようになるはずだ。
もとより廃屋のため、外部ネットワーク利用の契約などはされていない。しかし、物理的に接続できさえすれば、マリアがうまいこと細工をしてどうとでもできそうだと言うので、配線を繋げることにした。どう考えても回線の不正利用といえそうだが、違法行為は今さらである。それに、自分の利益のためというよりも、ネットワーク上でのマリアの自由な行動のため、と考えると、スタンに罪悪感はあまり湧かなかった。
『すごい、すっごい!今までよりもだいぶ身軽だよー!ありがと!スタン。』
ネットワーク上の自由さの向上が、どういう感覚なのかは計り知れないが、マリアがこれだけ喜んでいるのだから、やった価値はあったな、とスタンは思った。
そういえば、マリアの声の感じが若干クリアになっている気がする。これもネットワーク改善の効果なのだろうか。
『あれ?』
マリアが不意に怪訝な声を出した。
『これは・・・、何だろ?・・・うーん。まあ、いいや。えいっ!!』
少し迷ったそぶりを見せ、思い切って何かを実行したようなマリアに、スタンは聞いた。
「どうしたんだ?マリア。」
『いやー、なんかさ・・・。ネットワークが快適になって、私の視野みたいなものも、広がったのね。したらさ、なんかスタンの使ってるwebサービスのアカウントに、よく分かんない紐みたいのが付けられてるのに気付いてさ。ウィルスかマルウェアかと思って、切っちゃった。』
「えっ!?」
人よりはPCに詳しいスタンであったから、普段からウィルスやハッキングへの対策は当然のように行っていた。だから、マリアの言葉はにわかには信じられなかったし、驚きだった。
「紐って・・・、どこか外部へ正規とは違うネットワークでつながってたってことか?大本はたどってみたのか?」
『や、それがさ。ちょっとたどると、ぐっちゃぐちゃにカモフラージュされてて、すぐにたどり着くのは難しそうだったから、ひとまずスタンのアカウントの安全性確保と思って、とりあえず切断しちゃった。』
「・・・それは、助かるけど・・・。でも、一言本人に断れよな!」
『あー、ごめーん・・・。』
マリアをたしなめつつ、いろいろと可能性を考えるが、ウィルスやマルウェアにとりつかれるような不手際は、このところの自分の行動からは思い当たらなかった。
だとすると、ずっと前からなのか。それにしても定期的なセキュリティチェックにも引っかからないとなると、よほど高度で巧妙な技術によるハッキングである。スタンは少し背筋が寒くなった。
『だいじょぶ?スタン。』
マリアが黙り込んだスタンに心配そうに声を掛ける。
「ああ、大丈夫。思い当たることがなくてさ。ちょっと、おっかないなって。」
『だよねぇ・・・。・・・でも、これからは心配ないよ!ワタシ、その辺のセキュリティソフトなんかメじゃない守備力だよ!』
声だけだが、胸をはっていることが分かるような言いぶりに、スタンは苦笑した。
「そりゃ、今だって、気付かれないようにネットワークを違法利用できてるんだもんな。」
『いや、そうだけど!それは言わない約束でしょーよ!』
もうすっかり2人は法令違反の共犯だった。
自身のアカウントへのハッキングに不安は残るスタンだが、ネットワーク上の物事をかなり自由自在に操作できるらしいマリアの性能に、少し安心も感じ始めていた。




