第10話 マリアの友達
マリアが生まれたことにより、スタンの学校での周囲からの評価が変わっていった。
「いつもノートPCいじってるオタクっぽい奴」から、「いつも彼女っぽい女の子と通話しているヤツ」というものに。
さすがに授業中は遠慮しているようだったが、授業の合間はいつも、というぐらい、マリアは端末を通してスタンに話しかけてきた。正直少しうっとうしい思いもあったが、根が明るいマリアとの会話に、スタンも楽しさを感じていた。
『ねえ、スタン以外の人とも話してみたいんだけど。』
ある日の昼休み。校内のカフェテリアに向かう途中、マリアは唐突にスタンに要求した。
「はあ?いや、難しいだろ・・・。・・・自分が違法な存在だって分かってるか?」
声を潜めてスタンは言った。
『その言い方止めてよー。すっごい否定される感じ。』
マリアは不満を述べるが、スタンとしては、学校で通話を装ってマリアと会話するのもスリルのあることだった。それなのに、他の人間にマリアの存在が知られるなど、不安や恐怖以外の何物でもない。
「悪いけど、現実問題そうだし、難しいものは難しい。マリアにとってもリスクだぞ。」
『大丈夫だって。遠くの友達と通話してるっていう体なんでしょ、今だって。ばれないって。あ、それともスタン、あんま友達いないんでしょー。無鉄砲なひねくれ者だもんね。』
「うるさいな。」
実際、それほど社交的でもないスタンはあまり友人が多い方ではなかった。くだけた感じに話せるのもロブを含め、数えるほどもいない。そして、違法なAIということを隠したとしても、紹介して話までさせるのは怖い。特にロブのような、いい加減なヤツには。
『いいじゃーん。スタンとの会話だけじゃ飽きるって。スタンだって、自分がワタシを楽しませられるエンターテイナーなんて自信ないでしょ。』
「そんなもんになりたくはない!」
2人がぎゃあぎゃあ言い合いながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「どうしたのスタン君?噂のカノジョと喧嘩?」
声を掛けてきたのはドロシーだった。にこにことうれしそうな顔をしている。いや、顔が良いのでそう表現されてしまうが、正しくは「にやにや」なのかもしれない。色恋の噂に興味津々な女子のノリ特有のものをスタンは感じた。
「いや、別に・・・」
スタンが言いかけると、端末から一層大きな声量でマリアが叫んだ。
『誰?スタン!女の子?女の子?ワタシ、話したい!!』
「ハーイ、スタン君のカノジョ?さん。私はドロシー。よろしくね。」
スタンが止める間もなく、ドロシーが近づいてきて端末に向かって返答した。
『あははー。カノジョじゃないよ。ただの友達ー。悪い奴じゃないとは思うけどね。ワタシはマリア!よろしく!』
スタンは諦めて頭を抱えるしかなかった。
『・・・でさー、非効率なのに、助けるって行動に出たのが、あのキャラのおもしろいところだよね!』
「あはは、そんな風に見るの?本当におもしろいね、マリアちゃんて。私の周り、あんまりアニメの話に乗ってくる子いないから、すっごいうれしいー。あ・・・もう、昼休み終わっちゃう。じゃあ、また話そうね!」
『うん!またね、ドロシーちゃん!』
スタンにも「じゃあね」と声を掛け、ドロシーは席を立った。昼休みの間、カフェテラスで昼食を取るスタンの横で、端末をスピーカーモードにして話すマリアとドロシーは、ひとしきりガールズトークを繰り広げた。アニメが好きという共通項があったことで、すっかり意気投合して盛り上がっていた。
「満足したか?」
『うん!』
明るく返事をするマリアに、スタンは苦言を呈した。
「でもな、マジで気をつけろよ。話の途中、時々変な返答してたぞ。ドロシーは面白がってたけど・・・。思ったんだけどな、マリアはまだ、人間のことを十分に学習し切れてないんだよ。常識がないというか、何というか。」
『失礼ね!常識がないとか、法逸脱少年に言われたくないし!』
それを言われるとスタンも苦しい。
「まあ、あれだけ打ち解けちゃった以上、またドロシーが話したがったら、話しても良いけど・・・。」
『本当!?うれしい!』
「ドロシーが話したがったら、な!」
マリアに釘を刺しながら、スタンも席を立ち、午後の授業へ向かった。
他の生徒達も午後の授業に向けて動き出すカフェテリアの端で、歩いて行くスタンを静かに見つめる人間がいた。・・・トレイス教諭だった。




