中和剤の完成と、出発の朝
【中和剤の完成と、出発の朝】
3日後の朝。
ニーヴが安宿の食堂に、小さな木箱を持って降りてきた。中には、6本の薬瓶。半透明の淡い緑色の液体。
「できたで」
「腐食毒の中和剤?」
「そうや。ゴルドからもらった結晶がやっぱり効いた。3日かけて配合を詰めてん」
ニーヴが、木箱を食堂のテーブルに置いた。
あたしは1本を手に取って、光に透かして見た。粒子が細かく分散している。沈殿なし。
「使い方は」
「皮膚に直接触れた場合、患部に1滴。深い傷に体液が入った場合、傷口を洗ってから2〜3滴。あとは——投擲もできる。ガラス瓶のまま投げて、変異種の周りに散布する」
「投擲で何ができる」
「変異種の体液濃度を下げられる。爪を振るう前に散布すれば、腐食性が弱まるはずや」
「便利」
あたしはノートに書き留めた。
使用法、用量、効果範囲、副作用。
ニーヴが、こちらの記述を覗き込んで頷いた。
「あんた、ええ整理する」
「整理が仕事」
シオンが厨房から朝食を運んできた。
今朝は、肉と豆のシチュー、香草入りの黒パン、チーズ、ピクルス。少し量が多めの献立。
「今日、戦闘ですよね。体力つけてもらおうと思って」
「ええ判断や。助かるわ」
3人で食事を始めた。
あたしも、いつもより量を多めに食べた。今日は——本格的な戦闘になる可能性が高い。
食事中、ニーヴが言った。
「あんたの薬、今朝の試運転、どうやった」
「3日続けて飲んでる。気だるさには慣れた。指輪の負荷は——確かに減ってる体感がある」
「戦闘中、外す気か」
「外せる範囲は外す。でも、可能な限り、はめたまま戦う」
「了解。うちは、あんたが倒れる可能性も計算に入れとく」
「お願い」
シオンが、横で黙々と食べていた。
最近、ニーヴの薬の影響で味覚が少しだけ鈍っているらしい。本人は「分かる範囲では分かります」と言うが、料理の調整は微妙に変わっている。
「シオン、調子は」
「大丈夫です。紋様の熱、薬で抑えられてます」
「無理してないやろな」
「無理してないです。本当に」
ニーヴが、シオンの目をじっと見た。
数秒の沈黙の後、頷いた。
「うん。今日は使える」
食事を終えた。
各自、装備を確認した。
あたし:ジャケット、ブーツ、ポーチ、ノート、指輪。それと、ニーヴから渡された朝用の薬瓶を1本。
シオン:剣(まだミクトが打ち直す前のもの)、フード付きベスト、新しい藍色の布、薬瓶ホルダー、ニーヴの夜用薬。
ニーヴ:白詰襟ブラウス、フリル付きベスト(フィールド用に脱げる構造)、薬瓶ベルトハーネス(中和剤6本+通常薬15本)、投擲針、左腰の短刀。
「準備、できた」
「行こ」
安宿を出る前、ニーヴが、フリルベストの上から薬瓶ベルトを締め直した。
令嬢風の見た目のままで、戦闘装備が下にある状態。
戦闘になる前に、ベストを脱げばいい。
「リィナとは、ギルド前で合流」
「待っとるやろ」
3人で、朝の冒険者街を歩いた。
まだ早朝。屋台はまだ準備中。空気が、少し冷たい。
あたしの中で、計算が走っていた。
変異種、3体以上。腐食体液持ち。3本爪。中和剤あり。シオンの紋様、抑制中。リィナの斥候眼。3日間の準備。
数値は——たぶん、足りている。
でも、計算外の変数は、いつも、ある。
毎日更新継続中。明日も同時刻に。
読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。
下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。




