第5階の足跡と、息を潜める時間
【第5階の足跡と、息を潜める時間】
ギルドのダンジョン入口で、リィナが待っていた。
軽装。今日はいつもより装備が多い。煙玉が倍。光る粉、音響石も補充済み。
「準備万端だな」
「アタシも、今日は本気で動く」
4人で、ダンジョンに入った。
第1階から第4階までは——いつも通り。応急封印の効果で、上層の魔物は通常分布。
角猪を2頭、岩蜥蜴を3匹、シオンとリィナで処理した。シオンの剣の動きは、3日前より、また少し良くなっている。
第4階から第5階への階段を降りる前、ニーヴが立ち止まった。
「ここからはうちの薬瓶ベルト、起動する」
フリル付きベストを脱いで、リィナに渡した。リィナが背負った。
白詰襟ブラウスの袖を肘まで捲った。腕の細かい火傷跡が見えた。
革のベルトハーネスが——一気に存在感を増した。
令嬢から、薬師へ。
切り替わる瞬間が、いつ見ても、印象的だった。
「行こう」
第5階に降りた。
以前と同じ広間。応急封印された亀裂が、青白く薄く光っている。
でも——3日前と、空気が違う。
「気配が増えてる」
リィナが、即座に言った。
すでに偵察モードに入っている。
「魔物——変異種か」
「3、4体。広間の周辺と東側の通路に2体」
あたしの中で、計算が走った。
予想より多い。3日でこれだけ繁殖した、ということ。
応急封印で深層種の発生は抑えられているが、変異種は——別の発生メカニズムらしい。
「ニーヴ。中和剤、すぐ出せる位置に」
「もう出しとる」
ニーヴが、薬瓶ベルトから、すでに2本を手に取っていた。投擲用。
「シオン。あなたは前衛だが、紋様は使わない。剣だけで戦う。ニーヴの中和剤に頼る」
「はい」
「リィナは、東側の2体を引きつけて、こちらから引き離して。広間で1体ずつ、相手にする」
「了解」
作戦が、即座に組み上がった。
リィナが、煙玉を東側の通路に投げた。煙が立ち上がる前に、すでに別の通路に走り込んでいる。
数秒後——東の方から、何かが動く気配。1体目の変異種が、煙の方に向かった。
「2体目、まだ動かない」
リィナの声。広間の隅から。
あたしたちは、広間の中央近く——応急封印の亀裂の脇に位置を取った。
西側の通路から——足音。
来た。
あたしの目が、その姿を捉えた。
体長2メートル。深層種ほど大きくはない。4足歩行。皮膚は灰色がかった青。
3本爪の前足。爪の先から、わずかに緑色の液体が滴っている。腐食体液。
目は——4つ。前に2つ、横に2つ。視界が広い。
深層種の系統ではない。明らかに別の生き物。
フィルター劣化で、新しく発生した何か。
「シオン。距離は5メートル維持。それ以上、近づかない」
「はい」
「ニーヴ。あたしの合図で、爪の周りに中和剤散布」
「了解」
変異種が、こちらに気づいた。
4つの目が、あたしたちを順番に確認した。
それから——低く唸って、前足を構えた。
戦闘開始。
毎日更新継続中。明日も同時刻に。
読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。
下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。




