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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ
割り切れない

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第5階の入口と、爪痕の違和感

【第5階の入口と、爪痕の違和感】


 夕方。

 ギルドのダンジョン入口で、リィナが待っていた。

 軽装。短い髪。ショートソード2本。煙玉も補充済み。


「お、来たな」


「リィナ。今日は——入口だけ確認する。中までは入らない」


「了解。アタシも、無理させる気はない」


 4人で、ダンジョンの入口を抜けた。

 第1階から第4階までは——以前と変わらない。応急封印の影響は、上層には及んでいない。

 魔物の数は通常通り。


 第4階を抜けて、第5階への階段を降りた。


 階段の下から——青白い、薄い光が漏れていた。

 亀裂から漏れる根源エネルギーの色。

 でも、以前見たときよりは——薄い。応急封印が機能している証拠。


「3割減って、これか」


 ニーヴが、光を見て言った。


「以前は——もっと強かった」


「想像つく。完全に塞がってないとはいえ、効いとるな」


 あたしたちは、第5階に降りた。

 いつもの広間。床の中央近く、応急封印された亀裂が——青白く、薄く、光っている。


 リィナが、すぐに偵察モードに入った。

 壁、床、天井、空気の流れ。

 しばらくして、戻ってきた。


「魔物の気配はない。少なくとも、この広間の周辺50メートルは」


「応急封印の効果」


「うん。深層種の発生は、確かに抑えられとる」


 ニーヴが、亀裂に近づいて、しゃがんだ。

 手で触れずに、目だけで観察した。


「封印の構造、見せて」


 あたしは、リィナに依頼して、亀裂の周囲に施された封印の魔法陣を、ライトで照らしてもらった。

 古代の文字。ギルドの研究チームが施した応急処置。


「これ、古代の刻印を真似してるんやな」


「そう。完全な再現じゃない。古代の技術は失われてる」


「半分しか効いとらん感じや。完全な刻印やと、たぶん100%塞げる」


「だから——ミクトが必要」


「刻印鍛冶師、な。早く来てほしいな」


 リィナが、亀裂の反対側を見て、急に手を上げた。


「待て。これ見ろ」


 あたしたちはリィナのところに集まった。

 亀裂から少し離れた床の上に——爪痕があった。

 深い。長い。3本の溝。


「深層種——?」


 シオンが、震えるような声で言った。


「待って。これ、深層種の爪痕と違う」


 あたしが、しゃがんで観察した。

 深層種の爪痕は——前回、第5階で見ている。あの片目の個体の爪痕。あれよりも——


「形が違う。深層種は4本爪。これは3本爪」


「新種か」


 ニーヴが、爪痕の縁に触れた。


「縁が——少し溶けとる。腐食性の体液を持っとる証拠や」


「腐食性——」


「深層種にはない特徴や。これは、変異したやつや」


 あたしの中で、計算が走った。

 変異種。深層種の系統じゃない。フィルター劣化で発生した、新しいパターン。


「リィナ。範囲、もう一度確認できる?」


「やる」


 リィナが、再び偵察に出た。今度は、より広い範囲。

 その間、あたしとニーヴとシオンは、爪痕を観察し続けた。


「ニーヴ。腐食体液——人体への影響は?」


「軽い火傷程度の腐食。深いと皮膚と肉が溶ける。命に関わるわ」


「対策は」


「中和剤なら調合できる。蒼鉛石の粉末をベースに——いや、ゴルドからもらった結晶がたぶん効く」


「明日中に?」


「3日後には完成や。原料を集める時間が要る」


 計算が、合った。

 技術顧問——ミクト——の到着が4日後。中和剤の完成も同じ頃。

 時期的に、ちょうどいい。


 リィナが戻ってきた。


「広間の周辺200メートル、爪痕数本。同じ個体じゃない。複数いる」


「複数——」


「2、3体は確実。それ以上は——わからん」


 あたしは、立ち上がった。


「今日はここまで。退却」


「了解」


 4人で、第5階を出た。

 階段を登る間、誰も口を開かなかった。

 それぞれが、今日見たものを、頭の中で整理している。


 ダンジョンの入口を出て、外の空気を吸った。

 夕日が、谷の上層を金色に染めていた。


 リィナが、口を開いた。


「次に4人で潜るとき、本気の準備がいるな」


「いる」


「アタシも本格的に装備見直す」


「うちも薬の在庫増やす」


 3人が——いや、4人が、それぞれの役割を確認した。


 シオンが、隣で、自分の右腕を見た。

 新しい藍色の布の下、紋様が——たぶん、少し、熱を持っている。本人は何も言わなかった。

 でも、あたしには見えた。


 明日からは、本格的な再侵入準備が始まる。

 ニーヴの薬。ミクトの装備。リィナの偵察。あたしの計算。シオンの剣。

 全部が、揃ったときに——あたしたちは、また第5階に潜る。


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