ゴルドの店と、3人目の口の悪い相手
【ゴルドの店と、3人目の口の悪い相手】
午後。
3人で、下層のゴルドの店に向かった。
ゴルドの素材屋——あたしがアウレクスを脱退してから、ずっと素材の取引をしてきた場所。鑑定の腕は確か。値段は公正。
シオンも、住み込みで働いていた頃から、ここの素材を扱っている。慣れた場所。
でも——ニーヴにとっては初めて。
店に入った。
ゴルドが、いつものカウンターの奥にいた。革のエプロン、白髪混じりの髭、太い腕。冒険者の素材を扱う職人の顔。
あたしたちを見て、片手を上げた。
「お、3人で来たか」
「ゴルド、紹介する。ニーヴ。薬師」
「お、噂は聞いとる」
ゴルドが、ニーヴを見た。
ニーヴも、ゴルドを見た。
「ゴルド=ヴァンガード。素材屋だ。よろしく」
「うちはニーヴ=ナハトローゼ。カルタレスから来た。よろしく」
「カルタレスか。商売柄、たまに港町の業者が来る。久しぶりに聞く土地だ」
「ゴルドさん、商売の幅が広いんやな」
「狭くやってたら、下層で食っていけねぇ」
ゴルドが、ニーヴの薬瓶ベルトを見た。
「いい装備だ。革の質、上等」
「うちの父が手作りしてくれたんや。革職人の友達がおって」
「父親、職人か」
「元冒険者で、今は薬局。革の友人と長い付き合い」
「いい親父さんだな」
ニーヴが、少し誇らしげな顔をした。
ゴルドが、店の奥から薬瓶の見本を出してきた。
「うちの店は薬瓶も扱う。鍛冶じゃなくてガラス専門の知り合いがいる。必要なら設計、相談に乗るぞ」
「ええな。今、戦闘用の投擲薬瓶を新調しようか考えとる。重さと割れやすさを調整したい」
「投擲用だな。中身の比重と、外殻の厚みの組み合わせだ」
「そう、それや。あんた分かっとるな」
ゴルドとニーヴが、薬瓶の話で盛り上がり始めた。
数字、素材、製法、コスト。
あたしは——少し離れた場所で、シオンと一緒に他の素材を見ていた。
「あの2人、なんか相性いいですね」
「うん」
「ゴルドさん、初対面なのにすごい打ち解けてますね」
「ゴルドはプロの目で人を判断する。ニーヴはプロ。だから、すぐに分かった」
「プロ同士、ですね」
シオンが、棚に並んだ素材を見ていた。
深層由来の鉱物。蒼鉛石——シオンの布の素材と同じ系統のもの。
「シオン。今日は何か必要?」
「いえ。見てるだけです。久しぶりに来たので、何があるか確認したくて」
シオンが、棚を手で指していった。
「これ、前より良い品が増えてますね。ゴルドさん、商売好調なのかな」
「あたしたちが——少なからず、貢献してると思う」
「え?」
「あたしたちが第5階の素材を持ち帰ってる。希少品。ゴルドの取引が増えてる」
「ああ、なるほど」
シオンが、納得した顔。
カウンターのあたりから、ニーヴとゴルドの話が大きくなった。
「あんた、これは素材として面白いぞ。腐食毒の中和に使えるかも」
「ほな、試させて。サンプルもらえるか?」
「持っていけ」
ゴルドが、小さな袋にいくつかの結晶を入れて、ニーヴに渡した。
「あ、お代——」
「いい。試して効果あったら後で買え。先払いはなしだ」
ニーヴが、ゴルドを、まじまじと見た。
「あんた、ええ商売人やな」
「商売は信用だ。お前は、信用に応えそうな顔をしとる」
「気に入った」
ゴルドが、ふっと笑った。
あたしは、その光景を、横で見ていた。
ゴルドとニーヴ。下層と港町。違う場所の人間が、商売の言葉で、瞬間的に通じ合う。
計算では出せない種類の、相性。
1時間ほどで、店を出た。
ニーヴが、もらった結晶の袋を、薬瓶ベルトのポーチに入れた。
「ええ店や」
「でしょ」
「あんた、ええ取引先持っとるなイグリット」
「ゴルドが——あたしを生かしてくれた、と言ってもいい」
「金銭面で?」
「金銭面と、それ以外で。アウレクスを抜けた後、生活の土台を作ってくれた」
「ええ縁や」
ニーヴが、少し真面目な顔で言った。
あたしも、頷いた。
夕方が、近づいてきた。
次は——リィナとの合流。第5階の入口の予備調査。
準備を、進める。
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