夜の薬と、4人目の予告
【夜の薬と、4人目の予告】
夕食。
シオンが作った。鶏の香草焼きと、根菜のグラタン、パン、ピクルス。
ニーヴが「あんた、毎日この水準か?」と何度も呟いていた。
食事の後、3人で食堂のテーブルに残った。
他の客はもうあらかた帰った。安宿のおやじが奥で皿を洗っている。
ニーヴが、自分のポーチから、小さな瓶を取り出した。
濁った白い液体。
「シオン。これ、毎晩飲んでくれ」
「これは——」
「紋様の活動を抑える薬や。昨夜のよりもうちょい安定したやつ。眠気は出るけど味覚は鈍らへん」
「料理、できますね」
「できる。けど夜は早く寝てくれ。深層調査の前に体力つけといて」
「はい」
シオンが、薬を受け取った。両手で。
ニーヴが、それを見ていた。
あたしも、もう1本の薬瓶を、ニーヴから受け取った。
あたしの分。指輪の負荷を減らす薬。3日後から飲み始める予定の、試作品。
「これも毎朝1滴。気だるさ出るかも。慣れたら、量増やす」
「了解」
あたしたちは、自分の薬を、ポーチに入れた。
各自、自分の体と向き合うための、道具。
その時——食堂のドアが開いて、ギルドの伝令が入ってきた。
あたしたちのテーブルを見て、迷わず近づいてきた。
「イグリットさん。ギルド長からの連絡です」
封筒を差し出した。
あたしが受け取って、その場で開けた。
ギルド長の筆跡。短い文。
「技術顧問の到着、3日後から5日後に変更。準備に時間を要するため。詳細は別途連絡」
あたしは、その文を、シオンとニーヴに見せた。
「2日延期、ですか」
シオンが言った。
「5日後やと、うちの薬の準備とも合うな」
ニーヴが頷いた。
「ちょうどいい。第5階の再侵入準備を、その間に進める。応急封印の現状確認、必要素材の最終リスト、ニーヴの薬の試運転」
「うちもシオンの薬を安定させとく。あんたの薬も原料が3日後に届く」
計画が、自然と組み立てられていく。
あたしは——少し、不思議な感覚だった。
数日前まで、1人で動いていた。今は、3人で1つの計画を組んでる。
1人で組む計画より、3人で組む計画は——もっと、複雑で、もっと、強い。
シオンが、テーブルに残ったパンの欠片を見ていた。
「——4人になりますね」
「うん」
「ニーヴさん、人見知りしないですよね?」
「うちはな。あんたら相手やと、最初の3分で慣れた」
「3分は早い」
「短いほど早い、早いほどええ。——人生短いんやから」
ニーヴが、ふっと笑った。
でも、その言葉には、重みがあった。
あたしも、シオンも、頷いた。
3人で、夜の食堂を出た。
各々の部屋に戻る前、廊下でニーヴが言った。
「明日から3日。準備期間や。シオンは無理せん。イグリット、あんたも無理せん。うちは——おせっかいする」
「あなた、それ仕事?」
「仕事や」
「嘘」
「嘘や」
ニーヴが、肩を揺らして笑った。
あたしも、笑った。声を出さずに。
シオンが、犬みたいに嬉しそうにしていた。
部屋に戻った。
あたしのベッドに座って、ニーヴからもらった薬瓶を、机に置いた。
3日後から飲む。指輪の負荷を減らす薬。
5年。
その先がある。
あたしは——窓の外の星を見た。
明日から、また、第5階へ向けて準備が始まる。
今度は、3人で。
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