ギルドの午後と、3人目の口の悪い相手
【ギルドの午後と、3人目の口の悪い相手】
午後。
あたしたちは3人で、ギルド本部へ向かった。
報告の予定。ニーヴが正式にチームに加わったこと、シオンの紋様の状態、第5階再侵入準備の進捗。それらをまとめて、グレイフかギルド長に伝える。
ギルド本部の階段を登りながら、ニーヴが言った。
「ここのギルド、内装がしっかりしとるな。うちの故郷のギルドはもうちょい雑や」
「カルタレスのギルド、どんな感じ?」
「港町や。木造で潮風で塩漬け、扉が重うて職員が日焼け。ここは——石造りで整然や」
「上層に近いから、上の人が出入りする。だからかも」
「ええ街や、エルドヴァレスも」
ニーヴが、廊下の窓から谷の風景を見た。
あたしも、それを横で見た。
慣れた風景だけど——他所から来た人間の目で見ると、また別の顔をしている。
報告窓口で、グレイフが待っていた。あたしたちを通した。
報告は短く済んだ。ニーヴの紹介、シオンの状態、装備調整の予定。グレイフが頷いて、書類にサインした。
「ご苦労」
それで終わり。
ギルド本部の1階のロビーに戻った。
ロビーの隅のソファに——リィナがいた。
短い髪、革のショートソード2本、軽い装備。報告を終えたあとらしく、お茶を飲んでいる。
あたしたちが歩いてきたのを見て、片手を上げた。
「おう、3人で来たか」
「リィナ。報告?」
「報告。第3階の魔物分布の今週分。——で、こっちは噂の薬師か」
リィナが、ニーヴを見た。
ニーヴも、リィナを見た。
あたしは——少し、頭の中で計算が走った。
たぶん、この2人は、組み合わせとして強い。
「うちはニーヴ=ナハトローゼ。よろしく」
「リィナ=ヴァレス。アタシ、斥候だ」
ニーヴが、「アタシ」を聞いて、ふっと笑った。
リィナが、「うち」を聞いて、ふっと笑った。
同じ瞬間に笑っていた。
「お前、口悪そうだな」
「あんたもや」
「気が合いそうだ」
「うちもそう思う」
ロビーの隅で、2人が、にやっと笑い合った。
あたしは——少し、頭を抱えた。
シオンが、横で楽しそうに見ていた。
「リィナさんとニーヴさん、もう仲良しですね」
「仲良しじゃない。気が合っただけや」
「気が合っただけだ」
ニーヴとリィナが、ほぼ同時に言った。
言い方は違うが、否定の中身は同じ。
また、2人で笑った。
ロビーから外に出た。
午後の冒険者街。シオンが「ついでに食材の補充」と言った。ニーヴも「薬草を見たい」、あたしも「インクが切れた」。
リィナも、「アタシも一緒に行く。煙玉の補充」と言った。
4人で、市場へ向かった。
市場では、それぞれが必要な店を回った。
ニーヴの目利きは——早かった。
薬草屋の前で立ち止まって、店先の束を一瞥しただけで言った。
「ここの薬草、湿気で品質落ちとる。乾燥が甘い」
店主が、ぎろっとニーヴを睨んだ。
ニーヴは涼しい顔。
「事実や。怒っても品質は上がらん」
リィナが、横で肩を揺らして笑った。
「お前、いきなり店主と喧嘩か」
「喧嘩やない。指摘や」
「うん。指摘だな」
リィナが頷いた。
あたしも——同じ意見だった。
別の薬草屋で、ニーヴが束をいくつか選んだ。
店主と短いやりとり、値段の調整、購入完了。手際がいい。
「ニーヴさん、買い物うまいですね」
シオンが感心した。
「うちは買い物の専門家でもある。良いものを安く。それが薬師の仕事の半分や」
「半分、ですか」
「薬の半分は素材で決まる。素材選びと値段交渉が、調合の半分や」
シオンが、メモを取り出した。
ニーヴが、それを見て、目を丸くした。
「あんた、メモ取るんか?」
「素材屋の出身なので。良い情報は、書き留めるのが癖です」
「ええ癖や」
シオンが、また頭を下げかけた。
「ありが——」
「あかん」
ニーヴが即座に止めた。
「あ——すみません」
シオンが慌てて口を閉じた。
リィナが、横でくっくっと笑った。
「シオン、お前忘れっぽいな」
「すみません」
「謝らんでええ。慣れるまで時間かかる」
ニーヴが、シオンの肩を、ぽん、と叩いた。
シオンの太陽みたいな笑顔。
あたしは、ふと、リィナに小声で聞いた。
「リィナ。あなたから見て、ニーヴはどう」
「気に入った。アタシは、嘘つかない奴が好きだ」
「合うね」
「合うな」
あたしたちは、しばらく市場を歩いた。
あたしのインクも買えた。
シオンの食材も揃った。
リィナの煙玉も補充した。
夕方近く。
市場の出口で、リィナが手を上げた。
「アタシ、今日はこれで戻る。明日また会おう」
あたしが手を上げた。
「また」
「ニーヴ、また飲もうぜ」
「飲もう。あんた、強そうやな」
「お前もな」
リィナが、人混みに消えていった。
残された3人で、安宿へ向かった。
歩きながら、ニーヴがぽつりと言った。
「ええ仲間やな、あの斥候」
「うん」
「あんたら、運がええ」
あたしは——少し、考えた。
運。それも、計算外の変数。
夕方の谷に、夕日が差し込み始めていた。
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