朝食と、3つの食事スタイル
【朝食と、3つの食事スタイル】
安宿の1階の食堂。
あたしたちは3人で隅のテーブルに座った。
シオンが、今日は厨房を借りて朝食を作ると言った。安宿のおやじが「いいぞ、新顔さんもいるんだろう」と快く貸してくれた。
しばらくして、シオンが3人分の皿を運んできた。
ハーブと卵のオムレツ。チーズとハムを挟んだパン。ピクルス3種。スープ仕立ての豆と肉。
彩りがきれい。配置もきれい。
「いただきます」
シオンが手を合わせた。あたしも倣った。
ニーヴは——皿を見て、しばらく動かなかった。
「どうしたの」
「いや。——綺麗で、食うのが惜しい」
「食べて」
「うん」
ニーヴが、オムレツを一口。
目が、少し見開いた。
「うっま」
「ありがとうございます」
「あんた、料理人やったんか?」
「素材屋の見習いでした。料理は独学で——あ、辛い物は苦手ですか? 調味料変えられますよ」
「うちは辛い物が好きや。でもこれは——辛くなくてもええ。バランスがおる」
ニーヴが、もう一口。
「ピクルスの酸味と卵の甘み。スープの塩気とパンの香り。——わざとや、これ」
「気づきました?」
「気づくわ。うちは、味覚の専門家や」
あたしは、自分の皿のオムレツを一口食べた。
うん。確かにバランスがいい。シオンの料理はいつも、こちらの食欲に合わせて調整されている。
あたしの少食を見越して、味を凝縮させている。
「ニーヴさん。お口に合えば、今度辛味のレパートリーも増やします」
「いや、無理せんでええ。あんた毎食これ作る気か」
「作りますよ。せっかく3人になったので」
ニーヴが、シオンの顔を見た。
あたしも、横から見ていた。
シオンの顔——いつもの太陽みたいな笑顔。
ニーヴの目に、何かが揺れた。
「あんた——保護したくなる類いやな」
「え?」
「いや、何でもない」
ニーヴが、目を逸らした。
あたしの中で、計算が走った。
ニーヴ=19歳。弟ルカ=14歳と聞いた。シオン=16歳。
近い。年齢が近い。
ニーヴがシオンを見る目は——たぶん、弟を見る目に似ている。
食事が進んだ。
パンを食べながら、ニーヴが言った。
「あんたら、午後何するん」
「ギルドで報告予定。それから——」
「リィナさんに会いに行きませんか」
シオンが提案した。
「リィナ——名前は聞いとる。あんたらの斥候仲間やろ」
「あたしたちのパーティの準レギュラー。ダンジョン情報の収集役」
「ほう。会わせてくれるんか」
「会わせる。あなたとは——たぶん、気が合う」
「気が合う? なんでわかんねん」
「2人とも口が悪い。それと、世話焼き」
「あんた、辛辣やな」
「事実を言っただけ」
ニーヴが、肩を揺らして笑った。豪快に。
あたしも、口角が上がるのを、隠さなかった。
シオンが——その光景を、嬉しそうに見ていた。
朝食を終えた。
安宿のおやじが食堂の奥から、ぼそっと言った。
「賑やかになったな」
あたしは、頷いた。
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