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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ
割り切れない

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新しい仲間と、最初の毒舌

【新しい仲間と、最初の毒舌】


 2日後の朝。

 ギルド本部の応接室で、あたしとシオンはニーヴ=ナハトローゼと初めて顔を合わせた。


 女性。19歳。淡い翡翠色がかった金緑色の長い髪を、腰下まで届くハイポニーテールにまとめている。結び目に小さな黒いリボン。前髪は左右に流れ、両サイドに後れ毛。

 白い詰襟ブラウスに、首元に黒いリボンタイ。上に深緑のフリル付きベスト。ベージュのコルセット風腰回りに、緑系のミディ丈スカート。膝丈の茶色ブーツ。

 ——薬剤師の令嬢、と言われたら信じる。それくらい上品な見た目。

 だが、目だけは違う。

 翡翠色の大きな目が、入ってきたあたしとシオンを上から下まで一往復した。観察眼。これは——プロの目だ。


 首から下げた銀の小瓶が、光を反射している。素材を分析しなくても、上等な銀。

 両耳の大きな銀のイヤリングが、軽く揺れた。


 ギルド長が紹介した。


「ニーヴ=ナハトローゼ。銀ランク。戦場薬師。カルタレスのギルド所属。今回の調査に派遣された」


「うちや。よろしく」


 短い。

 でも、敬礼の代わりに、軽く手を上げた。それで全部済ませる、というやり方。


 あたしも答えた。


「イグリット=アシェンド。銀ランク」


「シオン=サルヴェインです。銅ランクです。よろしくお願いします」


 シオンの丁寧な挨拶に、ニーヴが少しだけ眉を上げた。


「鉄から銅、3ヶ月って聞いたで。あんた化け物か?」


「えっ、いえ、僕は——」


「『化け物』はやめて」


 あたしが割って入った。

 ニーヴが、こちらを睨んだ。


「冗談や。誉めてんの」


「あなたの誉め方は、誤解を生む」


「うちの口調が気に入らんか」


「気に入る気に入らないじゃない。シオンが気にする」


 ニーヴが、シオンを見た。

 シオンが、申し訳なさそうに、しかし、はっきりと、首を振った。


「えっと、僕は——大丈夫です。気にしてないです」


 ニーヴが、ふっと笑った。鼻で笑う、軽い笑み。


「あんたが気にしてるんやろ」


 あたしを見て言った。

 あたしは——少し、口を閉じた。


 ギルド長が咳払いをした。


「2人とも。仲良くやれとは言わないが——これから半年、調査チームとして組んでもらう。少なくとも共通の目的のために動けるようになってほしい」


「目的は——フィルター修復、せやろ?」


 ギルド長が頷いた。


「そうだ」


「ほな、うちは医者の仕事をする。あんたらは戦闘と分析。それでええ」


「医者じゃない。薬師でしょ」


「あ、それ気にしてる人や。すんません、訂正しとく」


 ニーヴが照れ笑い。意外に表情豊かだ。

 あたしの中で、最初の評価が——少しだけ、書き換えられた。


 悪い人間じゃない。ただ、口が悪い。それだけ。


 ギルド長がもう一言、加えた。


「ニーヴは、今日から君たちの宿舎に同居する。安宿の隣の部屋を確保した」


「同居——」


 あたしの声が、漏れた。

 ニーヴが肩を揺らして笑った。


「うちが嫌か?」


「いや。——驚いただけ」


「医者は近くにいんと意味ないやろ。寝てる時に何かあったら、走って5秒の距離が必要や」


 合理的な判断。

 あたしは——うん、と頷いた。


 応接室を出て、3人でギルドの廊下を歩いた。

 シオンが小声で、あたしに言った。


「イグリットさん。ニーヴさん——なんか、すごい人ですね」


「すごい、の意味は」


「えっと、迫力があって——でも優しそうで」


「優しそう、はまだ判定できない」


「でも、僕の挨拶を聞いてちゃんと一回受け止めてくれましたよ」


 シオンの観察眼が、あたしの計算より、いつも一歩早い。

 あたしは、ノートに書く言葉を、頭の中で整理した。


 ニーヴ=ナハトローゼ。観察眼。口が悪い。だが処置は丁寧。

 仲間。——たぶん、いずれ。


 まだ計算には早い。だが、悪い予感はない。


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