午後の訓練と、ふらつく動き
【午後の訓練と、ふらつく動き】
午後。訓練場でシオンと稽古。
冒険者ギルドの訓練場は屋外。日差しが強い。下層の冒険者街と上層の中間にある広場で、いつも数人の冒険者が剣や弓の練習をしている。
あたしは魔法の練習はしない。指輪の制限下では精密制御の練度を維持するのが日課。シオンの稽古に付き合うのは、相手をしながら自分の感覚を磨くため——という建前。
「シオン。左足の踏み込み、もう5センチ前」
「はい——こうですか?」
「角度は」
「35度——」
「いい。それで打ち込んで」
シオンが踏み込み、安物の剣を振った。
ミクトに新しいのを打ち直してもらう約束だが、それはまだ来ていない。今は古い剣のまま。
動きは——明らかに以前より速い。紋様の活性化以降、シオンの身体は着実に変化している。基礎体力はまだ鉄ランク並みだが、反射と判断の速度は銅ランクに完全に追いついている。
今日は——なぜか、その動きの中に、わずかな揺らぎがある。
「——シオン」
「はい」
「今、ふらついた?」
「え? いや、踏み込みが浅かっただけです」
「3センチ浅かった。原因は」
「えっと——わかんないです。なんか、足が」
シオンが少し首を傾げる。本人は気にしていない。
あたしは、目を細めた。
その時、訓練場の入口から声がした。
「おーい、2人で稽古か」
リィナだった。
短い髪、革のショートソード2本、軽い装備。いつもの斥候装備。
「リィナ」
「あんた最近、もっと忙しくなるんだろ?」
「ギルドから派遣チームが来る。3日後」
「噂で聞いた。薬師と鍛冶師らしいな」
「早い」
「斥候は耳が早いんだよ」
リィナがにやっと笑って、ベンチに腰掛けた。
「で、稽古。アタシも混ぜていいか?」
「混ぜる」
3人での模擬戦。リィナが仕掛けて、シオンが受けて、あたしが援護。
リィナの動きは速い。斥候特有のフェイント。シオンの剣がついていくが——途中で、また、少しふらつく。
リィナの目が、ぴくりと動いた。
「——おい。あの兄ちゃん、足元おかしくないか」
「気づいた?」
「気づくよ。アタシ、斥候だぞ」
リィナが攻撃の手を緩めた。シオンが少し息を整える。
「シオン。少し休む?」
「あ、いえ、大丈夫です。なんか最近たまに——」
「たまに、何」
「いや、何でもないです。本当に」
シオンが笑った。太陽みたいな笑顔。困った時の。
あたしの中で、計算が走った。
ふらつき。最近たまに。本人は気にしていない。
紋様。
第5階での暴走。指輪を外したあたしと、紋様を全開にしたシオン。あの時、シオンは「変異しかけた」。その時の負荷が——身体に残っていないと言える根拠はない。
むしろ、残っている方が自然だ。
でも、シオンは認めない。「大丈夫です」と言う。
あたしの計算では、シオンが「大丈夫」と言うときの85%は、大丈夫じゃない。
リィナがあたしの横にきて、小さく言った。
「——シオン、無理してないか」
「無理してる。本人は気づいてないか、気づかないフリ」
「あんた、ちゃんと見てやれよ」
「見てる」
リィナが頷いて、シオンの方に戻った。
「シオン。今日はもう休め。アタシが付き合ってやる。剣じゃなくて——おしゃべりに」
「え? いいんですか?」
「いい。アタシも久々にシオンと喋りたかったし」
リィナが、視線でこちらに合図した。「ありがとう、見ててやって」の合図。
あたしは小さく頷いた。
訓練場の隅で、リィナとシオンが話し始めた。これまでの話題、村のこと、最近の依頼。
あたしは少し離れて、2人を見ていた。
シオンの紋様。あたしが守ると決めたもの。
でも——その紋様が、シオンの内側を、少しずつ侵食している可能性がある。
薬師が来る。3日後。
医学的な観点で、何かわかるかもしれない。
訓練場の空が——夕方に近づき始めていた。
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