計画ノートと、3人目の予感
【計画ノートと、3人目の予感】
安宿に戻ったあたしたちは、シオンの部屋で計画ノートを広げた。
あたしの部屋でもよかったが、シオンの部屋の方が机が大きい。広い意味の——共同作業スペース。
ノートを開いた。あたしが3ヶ月前から書き続けている、ダンジョン・街道・素材市場のデータをまとめたノート。今は12冊目に入っている。
「シオン。素材リストの整理を頼む」
「はい」
シオンが手元の小さな帳簿を出した。素材屋出身の几帳面さで、依頼ごとの収支を記録している。
「恒久封印に必要な素材——あたしの推定では、3種類は確実」
「3種類?」
「1つ目。深層由来の鉱物。蒼鉛石の同系統。エルドヴァレスでも採取可能だが、純度が足りない可能性が高い」
「ヘルムガルド産の方が純度高いって、ギルド長が言ってましたよね」
「言ってない。あたしが先週、ギルド資料室で読んだ」
「あ、そっちか」
シオンが照れ笑い。
「2つ目。古代の刻印を施せる装置。今のギルドにはない。——刻印鍛冶師が必要」
「ギルド長が言ってた人ですね」
「そう。あたしたちでは、装置の設計図を読めても、作れない」
「3つ目は?」
「不明。古代の文献を読み込まないとわからない。これが——一番厄介」
ノートに3つの項目を書き込む。
1. 高純度の深層鉱物
2. 古代刻印装置(刻印鍛冶師の制作)
3. 未特定の素材(要調査)
シオンが、ノートを覗き込んで言った。
「2つ目と3つ目は、技術顧問が来てからですよね」
「そう。1つ目だけ、今から動ける」
「ヘルムガルド産——遠いですよね」
「大陸の北東。馬車で——2週間以上」
「半年ってギルド長が言ってましたけど。それだけかかるなら結構ぎりぎりですね」
「ぎりぎり」
ぎりぎり。
半年は長いようで、計算してみると、決して余裕のある期間じゃない。
まずエルドヴァレスで情報集めと素材リストの確定。それから旅。複数の都市を回る。各地のダンジョン調査。素材の調達と加工。最後にエルドヴァレスに戻って恒久封印作業。
時間配分を頭の中で計算した。
エルドヴァレス:1〜2ヶ月。旅と各地調査:2〜3ヶ月。戻りと封印作業:1〜2ヶ月。
合計、4〜7ヶ月。ギルド長の見積もりとほぼ一致する。
「シオン」
「はい」
「お昼、何にする」
「えっと——昼は」
シオンが少し考えてから、笑った。
「僕の手作り弁当——でいいですか」
「いい。手作り。何のメニュー」
「魚のハーブ焼きと野菜のピクルス。あとチーズとハムのパン。——あ、新しい味付け試したくて」
「試して」
「アンチョビと、レモンを少し」
「——わかった。あとで報告する」
シオンが嬉しそうに台所に立った。
安宿の台所を間借りして料理するのは、もう日常の風景。
あたしはノートを見つめた。
計画。順番。優先順位。
ふと、ペンを置いて、窓の外を見た。
半年。長い旅。シオンと一緒。
そして——3人目。4人目。
計算上は——変数が増えるほど、結果は不安定になる。新しい人間、新しい性格、新しい癖。読みきれない要素。
でも。
昨日の朝、シオンが言った。「パートナー=一緒に決められること」。
決める相手が3人になり、4人になる。それは——計算外の変数が増えるということ。
計算外の変数が増えること。
この3ヶ月の経験から言えば——それは、悪いことばかりじゃない。
台所からシオンの鼻歌が聞こえてきた。何の歌かわからない。音痴だ。
あたしは——少し笑った。声を出さずに。
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