世界の報告と、13の亀裂
【世界の報告と、13の亀裂】
ギルド本部からの召集。
ギルド長の執務室に、今度はシオンも呼ばれた。
テーブルの上に、あの地図が広がっている。大陸全体。赤い印——前回は13箇所だった。
「増えた」
あたしの目が数えた。18箇所。5つ増えている。
「各地の調査チームからの報告が続いている。大陸の東端と西端にも、同様のフィルター劣化が確認された。——世界規模だ」
ギルド長がデータを出した。各地のダンジョンの魔力密度推移。
「全てのダンジョンで、過去10年間にフィルターの劣化が加速している。エルドヴァレスと同じパターンだ」
「10年前に——何かが起きた」
「我々もそう考えている。だが、10年前の記録に——特異な出来事は見つかっていない。少なくとも、人類が認識できた範囲では」
あたしは地図を見た。18箇所の赤い印。
根源の封印が、世界中で同時に劣化している。1つのダンジョンの問題ではない。世界の構造そのものの問題。
「対策は——」
「エルドヴァレスで施した応急封印を、各地に展開する。だが——応急処置に過ぎない。根本的な解決には——フィルターの修復技術が必要だ」
「深層種討伐後、街道の魔物は一時的に減りましたが」
「深層種の存在がダンジョンの食物連鎖を歪めていた。圧迫がなくなり、中層・浅層の魔物が本来の階層に戻った。——だが、これも応急処置と同じく一時的だ。亀裂を塞がなければ、再びバランスが崩れる」
「失われた古代の技術」
「そうだ。——イグリット。おまえに依頼がある」
ギルド長があたしを見た。
「ギルドの調査チームの分析顧問として、各地のダンジョンの調査に参加してほしい。おまえの計算力と分析力が——必要だ」
「各地——エルドヴァレスを離れる、ということですか」
「いずれは。だが、すぐにではない。まずはエルドヴァレスの亀裂の恒久封印が先だ。それが終わってから——」
あたしはシオンを見た。シオンがあたしを見ていた。
「……シオンも、一緒に行けますか」
「パーティメンバーとしてなら。——銅ランクでは制限があるが、おまえの推薦があれば、同行は可能だ」
「推薦します」
シオンが小さく頷いた。
「大陸全土のダンジョンを調査する。フィルターの修復方法を見つける。——大きな仕事だ」
「大きいです。——でも、わたしたちだけじゃない。各地のギルド支部、冒険者、研究者——全員で取り組む」
「合理的だ」
「合理的だけじゃなくて——必要なことだから」
ギルド長が微かに笑った。
「おまえは——変わったな。3ヶ月前に初めて報告書を持ってきた時は——もっと、冷たい目をしていた」
「冷たくはなかったです。合理的だっただけで——」
「今は——合理的で、かつ温かい。それでいい」
あたしは何も言えなかった。
ギルドを出た。シオンと2人で階段を降りた。
「イグリットさん」
「何」
「世界中のダンジョン——すごい仕事ですね」
「すごいとかじゃない。——やらなければならないこと」
「やらなければならないこと。——でも、イグリットさんは、それをやりたいんですよね」
「——なぜ」
「目が光ってたから。ギルド長の話を聞いてる時。——データを分析する時の、あの目」
あたしは前を向いた。バレている。全部バレている。
「……世界中のダンジョンのデータが手に入る。古代の封印技術の痕跡を分析できる。——合理的に考えて、興味深いテーマ」
「興味深い。——楽しそうですね」
「楽しいとは言っていない」
「言ってないけど——目が言ってます」
「……うるさい」
シオンが笑った。
あたしは——認めた。心の中で。
楽しみだ。世界の謎を解くこと。フィルターの修復方法を見つけること。
そして——シオンと一緒に、それをやること。
合理的な理由と、合理的ではない理由が——共存している。それで、いい。
毎日更新継続中。明日も同時刻に。
読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。
下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。




