パートナーと、護衛から対等へ
【パートナーと、護衛から対等へ】
村からの帰路。
渓谷を抜けて、平原区間に入った。
「——シオン」
「はい」
「1つ、提案がある」
「はい」
「次の護衛依頼から——護衛じゃなくて、パートナーとして。依頼ではなく、パーティ行動として村に行く。報酬は——折半」
シオンが足を止めた。
「折半って——」
「素材売却と護衛料を合わせた総収入から、経費を引いて、2人で割る。あなたが依頼主で、あたしが受注者、という関係を——やめる」
「でも——僕の方が稼ぎが——」
「シオン。あなたは銅ランク。ダンジョンでも依頼でも稼げる。対等な収入分配は——合理的だ」
シオンが黙った。考えている。
「……護衛依頼じゃなくなったら——僕がイグリットさんを雇ってる関係じゃなくなりますよね」
「なくなる」
「じゃあ——何の関係になるんですか」
「パートナー。対等な。——それ以上の定義は、今は必要ない」
シオンが——少しだけ、赤くなった。気のせいかもしれない。日差しが強いだけかもしれない。
「はい。——お願いします。パートナーとして」
「了解」
2人で歩いた。荷車は空荷。帰りは軽い。
「あ——イグリットさん。1つ聞いていいですか」
「何」
「パーティ名の『符号なし』——ギルドの人に説明求められたらどうします?」
「説明しない。名前の意味は、あたしたちだけが知っていればいい」
「——かっこいい」
「かっこいいとかじゃない。合理——」
「合理的、でしょ。知ってます」
あたしは口をつぐんだ。この少年は——あたしの台詞の先読みまでするようになった。
「リィナさんは、パーティに入れないんですか」
「リィナは自分のパーティがある。ダグとミラと。でも——合同依頼では一緒に動く。準レギュラー」
「準レギュラー。——リィナさんに言ったら怒りますよ」
「言うな」
エルドヴァレスが見えてきた。谷の都市。上層の白い建物群が夕日に光っている。
「——イグリットさん」
「何」
「僕——もっと強くなります。イグリットさんの隣に立てるくらい」
「……今でも、隣にいるでしょ」
「いますけど——もっと。戦力として。イグリットさんが1人で全部背負わなくていいように」
あたしはシオンを見た。
3ヶ月前、掲示板の前で「角猪に追い回された」と言っていた少年。今は——角猪を単独で倒し、岩蜥蜴を3匹処理し、深層種を怯ませた少年。
弱い。まだ弱い。あたしとの差は大きい。
でも——成長している。異常な速度で。そして、その成長は——シオン自身の努力と経験の結果だ。
「——期待してる」
シオンが目を見開いた。
「え——今、なんて——」
「聞こえたでしょ」
「もう一回言ってください」
「言わない。一回で覚えて」
シオンがにこにこしている。太陽が沈みかけているのに。この少年が笑うと、太陽がもう1つある気がする。
エルドヴァレスに入った。下層の門をくぐった。焼き肉の匂い。酒場の喧騒。
リィナが門の前で待っていた。
「おかえり。——遅かったな。村で何かあったか?」
「何もない。——あ、リィナ。パーティ名、決まった。『符号なし』」
「符号なし? ——はぁ? なんだそれ」
「意味は——」
「聞いてない。ネーミングセンスの話をしてる。——ダサくないか?」
「ダサくないです! 最高です!」
シオンが即座に反論した。あたしは黙っていた。リィナとシオンが名前の良し悪しで言い合っている。
——ダサいか。ダサいかもしれない。
でも、あたしとシオンの関係を表す言葉として——これ以上のものが見つからなかった。
割に合うかどうかは、もう関係ない。
「——夕飯、食べよう。3人で」
「イグリットの奢り?」
「今回は割り勘」
「結局計算してんじゃねぇか。『符号なし』とは——」
「うるさい」
3人で食堂に入った。
日常が——戻ってきている。新しい形の日常。
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