表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ
割に合わない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/86

トルテの煮込みと、村の夕暮れ

【トルテの煮込みと、村の夕暮れ】


 トルテの煮込みは——相変わらずうまかった。


 根菜と肉の煮込み。コトコトと半日かけて煮た、優しい味。スパイスが控えめで、素材の旨味が溶け出している。


 シオンが隣でおかわりしている。3杯目。


「シオン。食いすぎ」


「だって、トルテさんの煮込みは——」


「おかわりあるよ、たくさん作ったから」


 トルテが鍋を持ってきた。小さなおばあちゃん。背中は曲がっているが、足取りはしっかりしている。


「あんたも食べな、イグリット。——痩せたでしょう」


「痩せてません」


「痩せた。前に来た時より。——忙しかったんだろう。ダンジョンがどうとかって」


「……少し」


「少しじゃないだろう。ジグから聞いた。深層種ってのを倒したんだって?」


「チームで」


「あんたが主力だったんだろう。——すごいね。でも、無理はしちゃいけないよ」


 トルテがあたしの頭を撫でた。


 ——撫でないでほしい。子供じゃない。17歳だ。

 でも——撫でられると、何も言えなくなる。


「あんたたち2人、変わったね」


「変わってません」


「変わった。——前より、近い」


 トルテが笑った。皺だらけの優しい笑顔。


「いいことだよ。人は1人で生きるもんじゃない」


 シオンが「はい」と答えた。あたしは煮込みを食べた。


 夕方。村の子供たちが遊んでいる。シオンが子供たちに囲まれた。剣の素振りを見せろとせがまれている。


「シオン兄ちゃん! あの技見せて!」


「あの技って——角猪を倒すやつ?」


「うん!」


 シオンが木の棒で素振りをしている。子供たちが真似している。角度がめちゃくちゃだが、楽しそうだ。


 1人の子供があたしの方に来た。女の子。6歳くらい。


「おねえちゃんも冒険者?」


「おねえちゃんじゃない。——冒険者」


「すごい! 魔法使えるの?」


「使える」


「見せて!」


 あたしは指先に小さな光を灯した。赤い、豆粒ほどの光。子供が「わー!」と歓声を上げた。


「もっと大きいの!」


「大きいのは——村で出すと怒られる」


「ちぇー」


 子供が走っていった。シオンの方に。「シオン兄ちゃんの方がすごい!」と言っている。


 ……負けた。子供の支持率で。


「イグリットさん、子供に人気ですね」


 シオンが笑いながら言った。


「人気じゃない。1人。しかも、すぐあなたの方に行った」


「子供は正直ですから」


「正直に失礼」


 ジグが柵の修理をしている。新しい木材を組み込んでいる。


「ジグさん。——村の状況は」


「だいぶマシになった。角猪が減ったおかげで畑の被害が止まった。作物も持ち直してる。——おまえたちのおかげだ」


「あたしたちだけの力じゃない。ギルドが動いた結果」


「ギルドを動かしたのは、おまえの報告書だろう。——シオンから聞いた」


 あたしはシオンを睨んだ。シオンが目を逸らした。犬が悪いことをした時の目。


「——言わなくていいことを」


「でも、ジグさんが心配してたから——」


「余計なことを」


 ジグが笑った。


「ありがとよ。——2人とも」


 夕暮れ。村の西の空が赤く染まっている。

 子供たちが家に帰っていく。ジグが道具を片付けている。トルテが鍋を洗っている。


 平和な光景。3ヶ月前と同じ——いや、少し違う。

 3ヶ月前は、この平和がいつまで続くかわからなかった。今は——少なくとも、しばらくは大丈夫だ。フィルターの劣化は止まっていないが、深層種の脅威は一時的に去った。


 あたしは村の裏手にある小高い丘に登った。

 星が出始めている。下層の安宿からは見えない数の星。


 シオンが後からついてきた。


「——夜風、冷たいですね」


「冬が近い」


「もう3ヶ月ですね。——最初の護衛から」


「3ヶ月と17日」


「数えてたんですか」


「カウントダウンのデータがある。17日で報酬を計算した時の——」


「あの時の17日。——覚えてます。イグリットさんが『17日で銀ランクの依頼を受けられるようになる』って」


「言った。——結局、3ヶ月かかったけど」


「でも、銀ランクになりましたね」


「なった。——あなたも銅ランクになった」


 星が増えていく。夜空が広がる。


 あたしは——話さなければならないことがある。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。

下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ