表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/74

世界の亀裂と、異変の全体像

【世界の亀裂と、異変の全体像】


 ギルドに呼ばれた。今度はグレイフではなく——ギルド長。


 ギルド長の執務室は上層にあった。初めて入る。窓が大きい。エルドヴァレスの谷が一望できる。上層の白い建物群、中層の商業地区、下層の冒険者街。全部見える。


 ギルド長は——老人だった。白髪。穏やかな目。だが、穏やかさの奥に鋭さがある。


「イグリット=アシェンド。——座りなさい」


 座った。椅子がやわらかい。上層の椅子だ。


「おまえの報告書を読んだ。全部。3ヶ月前の最初の報告から、今回の根源エネルギー漏出点の発見まで。——感服した」


「ありがとうございます」


「そして——困っている」


 ギルド長がテーブルの上に、大きな地図を広げた。大陸全体の地図。エルドヴァレスは中央やや東。

 地図の上に、赤い印が複数打たれていた。


「エルドヴァレスだけではない」


 あたしの思考が加速した。


「この赤い印は——」


「各地のギルド支部からの報告だ。過去半年間に、大陸全体で魔物の異常増殖、ダンジョンの魔力濃度上昇、未確認の深層種の目撃——全て、同じパターンを示している」


 赤い印は12箇所。大陸全土に散らばっている。エルドヴァレスを含めて——13箇所。


「フィルターの劣化は——世界規模で起きている」


「おまえの言う『フィルター』という概念を、本部の研究員に照会した。——古代の文献に、似た記述があった。おまえがギルドの資料室で見つけたものと同じ出典だ」


「『漏出ニ適合セシ者』——」


「それも含めて。——ダンジョンは自然物ではなく、古代の封印装置であるという仮説。根源エネルギーという未知のエネルギー体の存在。フィルターの劣化による漏出の加速。全て——おまえの分析と一致する」


 あたしの胸の奥で、何かが軋んだ。

 3ヶ月前。あたしが報告書を書いた時。アウレクスに出した時。握り潰された時。

 あの時、この情報が公開されていれば——。


「アウレクスの盟主、ヴァルディスは——この情報を知っていたのでしょうか」


 ギルド長が頷いた。


「アウレクスは独自に根源エネルギーの調査を行っていた。少なくとも1年前から。——おまえの報告書を握り潰したのは、情報の独占のためだ」


「1年——」


「冒険者2人の死亡事故の調査過程で、アウレクスの内部報告書が発見された。根源エネルギーの存在と、その利用可能性に関する研究計画。——ギルドは現在、アウレクスに対して正式な調査を開始している」


 あたしは地図を見た。13箇所の赤い印。

 世界中のダンジョンで、同じことが起きている。フィルターが壊れている。根源が漏れ出している。


「このままでは——」


「推定で、3年から5年。フィルターの劣化がこのペースで進めば——大陸の複数のダンジョンで、深層の封印が完全に崩壊する。根源エネルギーが地上に直接漏出する」


「地上に——」


「魔物が地上に溢れる。深層種が。そして——根源エネルギーに曝された人間や動物が、変異を始める可能性がある」


 シオンの腕が思い浮かんだ。青い紋様。変異しかけた肌。

 あれが——世界中で起きる。


「ギルドは対策を——」


「対策を立てるには、情報が足りない。フィルターの修復方法も、根源の封印技術も——失われている。古代の技術だ」


 ギルド長があたしを見た。穏やかな目の奥の鋭さが、今は前面に出ている。


「イグリット。おまえには、2つお願いしたいことがある。1つは——おまえの分析力を、ギルドの調査チームに貸してほしい」


「わかりました」


「もう1つは——おまえの仲間。シオン=サルヴェイン。あの少年は——特別な存在だ。ギルドはそれを知っている。だが、公式には知らないことにする」


 あたしの背筋が伸びた。


「……なぜ」


「特別な存在は、利用したがる者が現れる。アウレクスがそうだったように。——あの少年を守れるのは、おまえだけだ」


 あたしは頷いた。

 シオンを守る。その言葉が——自然だった。計算ではなく。覚悟として。


 ギルド長の執務室を出た。階段を降りた。上層から下層へ。


 冒険者街に戻った。焼き肉の匂い。酒場の喧騒。

 シオンが安宿の前で待っていた。何か——紙袋を持っている。


「イグリットさん! パウンドケーキ買ってきました。トルテさんのレシピで、下層のパン屋さんに——」


「……シオン」


「はい?」


「帰ろう。——話がある」


 シオンの顔が少し心配そうになった。でも、すぐに頷いた。


「はい。——パウンドケーキ、食べながらでいいですか」


「いい」


 2人で安宿に入った。

 世界が壊れかけている。でも、パウンドケーキは甘い。そのギャップが——今は、ありがたかった。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。

下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ