表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/72

新しい布と、ゴルドの仕事

【新しい布と、ゴルドの仕事】


 ゴルドの店に行った。シオンを連れて。


「おう。——噂は聞いてるぞ。ダンジョンで深層種を2体倒したんだって?」


「1体はチームで。もう1体はあたしが」


「銅ランクがか。——まあ、おまえならそうだろうな」


 ゴルドが棚から布を出した。藍色。シオンの母親の布と同じ色。


「蒼鉛石の粉末を染料に混ぜて染めた。濃度は——前の布を参考にした。あの時、繊維を持ってきたろう。あれと同じ配合にしてある」


 シオンが布を受け取った。手で触れた。目を閉じた。


「……触り心地が——似てます」


「母親の手織りとは織り方が違うから、完全に同じにはできなかった。だが、遮蔽機能は同等かそれ以上だ。——いい仕事だろう」


「いい仕事です。——ゴルドさん、おいくらですか」


「12000レイドだ」


 シオンが財布を出そうとした。あたしが先に金を出した。


「あたしが払う」


「え——イグリットさん、そんな——」


「あなたの布が壊れたのは、あたしのせい。あたしが第5階に連れて行った。——経費」


「でも——」


「経費。経理上の処理。感情的な意味はない」


 ゴルドが「はいはい」と言った。リィナと同じ反応。この街の人間は全員、あたしの嘘を見抜くようになっている。


 シオンが新しい布を巻いた。右腕に。肩から手首まで。いつもの巻き方。

 あたしは——見ていた。巻き方を。


「……巻けた。——あ、ここの端を折り込むのが——」


「こう」


 あたしが手を伸ばして、布の端を折り込んだ。渓谷の夜に覚えた巻き方。


 シオンの手が止まった。あたしの手と、シオンの腕が——近い。


「——ありがとう、ございます」


 シオンの声が小さかった。


「いい。——しっかり巻いておいて」


 あたしは手を引いた。ゴルドが目を逸らしている。何を見ている。何も見るな。


 店を出た。


「イグリットさん」


「何」


「母さんの布は——なくなっちゃいましたけど」


 シオンの声が——少しだけ、震えていた。


「でも——この布も、大事にします。イグリットさんが準備してくれた布。ゴルドさんが作ってくれた布。——新しい形見です」


 あたしは前を向いて歩いた。振り返らなかった。振り返ったら——顔を見られる。


「——形見って、生きてる人間に使う言葉じゃない」


「え? あ——すみません。えっと、じゃあ——」


「贈り物、でいい。ただの贈り物」


「贈り物。——はい。大事にします」


 冒険者街の雑踏。夕暮れ。焼き肉の匂い。

 シオンが隣を歩いている。新しい藍色の布が、夕日に照らされている。


 母親の布は消えた。でも、遮蔽の布は残った。あたしが用意した素材で、ゴルドが作った布。

 シオンを守る布。意味は同じだ。形が違うだけで。


「——夕飯、食べていきましょう。食堂で」


「食堂の定食は味が雑だ」


「じゃあ、僕が作ります。部屋で」


「……それでいい」


 シオンがにこにこしている。太陽が沈みかけているのに、この少年の顔だけが明るい。


 あたしは——安心していた。

 指輪を外しても消えなかった。シオンの暴走を止められた。深層種を倒した。シオンの布を用意できた。

 全部——うまくいった。合理的に。いや——合理だけではなく。


 でも、まだ——終わっていない。


 第5階の亀裂。根源エネルギーの漏出。深層種が吸収して進化する環境。あの亀裂を塞がなければ、また同じことが起きる。

 そして——アウレクスが、この情報を知ったら。


 レイゼルがあの廊下で——最後に言いかけて、口を閉じた言葉。あれが何だったのか、あたしにはまだわからない。でも、ヴァルディスが次に動く時は、もっと直接的な手段で来る。それは、計算でもわかる。


 あたしの戦いは——まだ、半分も終わっていない。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。

下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ