秘密と、守るための嘘
【秘密と、守るための嘘】
翌日。ギルド管理部門からの呼び出し。
グレイフが、会議室であたしを待っていた。
「イグリット=アシェンド。——昨日の第5階での戦闘について、報告を求める」
「報告書は提出済みです」
「報告書にない部分を聞きたい。——あの光は何だ」
あたしは座った。椅子が硬い。
「どの光ですか」
「目撃証言が2つある。広間で紅い光が爆発的に発生したこと。そして——青白い光が広間を満たしたこと。ガイル=アーレンと、ハルグの隊員からの報告だ」
「紅い光は、わたしの魔法です。指輪の制限を一時的に解除して、出力を上げました。銅ランクの出力では深層種を倒せなかったので」
「制限解除——おまえの指輪が魔力制限装置だということは、記録にある。元金ランク相当の実力が——あの光か」
「そうです」
半分は本当だ。もう半分は——言わない。
「では、青白い光は」
「わかりません」
嘘だ。あたしの人生で——最も重要な嘘。
「青白い光は、根源エネルギーの漏出点から発生した光だと推測します。亀裂から漏れ出すエネルギーが、戦闘の衝撃で一時的に増大した。それだけです」
グレイフがあたしを見つめた。信じているかどうか、わからない。
「シオン=サルヴェイン。鉄ランクの少年。彼が戦闘に参加していた理由は」
「勝手についてきました。制止しましたが」
「彼の右腕に、何かあるという報告がある」
あたしの心臓が、0.5秒だけ速く打った。誰が報告した——ハルグの隊員か。暗い広間で、シオンの腕を見た者がいたか。
「右腕に布を巻いています。素材運搬の仕事で使う保護布です。特別なものではありません」
「光っていたという証言が——」
「暗いダンジョンの第5階で、根源エネルギーの光が反射した可能性があります。布の染料に鉱物粉末が含まれているので、反射率が高い」
嘘の精度が——上がっている。合理的な嘘。計算された嘘。あたしの得意分野だ。
でも、この嘘は——シオンを守るためについている。初めて、誰かのためにつく嘘。
グレイフが腕を組んだ。
「……報告書は受理する。だが——今後、同様の事象が発生した場合は、速やかに報告しろ」
「もちろんです」
会議室を出た。
廊下で、リィナが壁に寄りかかって待っていた。
「——聞かれたか」
「聞かれた。シオンの腕のことも」
「アタシも同じことを聞かれた。——『暗くて見えなかった。光? 知らない。アタシは偵察に集中してた』って答えた」
「——リィナ」
「何だ。仲間の秘密を守るのは当然だろ。アタシはシオンの腕のことを、聞かない。見なかったことにする。——でも、守る」
あたしはリィナを見た。
この女は——本当に、うるさいほどいい人だ。
「ガイルも同じ。『紅い光は見た。青い光は漏出点の光だろう』——それ以上は言ってない」
「4人の口裏が合ってるな」
「口裏じゃない。事実。——事実の中から、都合のいい部分だけを選んで報告した。嘘はついてない」
「嘘つきの論理だな」
「言われたくない」
2人で廊下を歩いた。ギルドを出て、冒険者街に向かう。
「——イグリット」
「何」
「シオンの布、新しいの作るんだろ」
「ゴルドに頼んである。蒼鉛石の粉末を仕入れてある。布地はシオンの母親と同じ織り方が——できるかわからない。でも、遮蔽機能は同等にする」
「あんた、いつからそんな準備してたんだ」
「2週間前」
「——マジか。シオンが安静の時にか」
「念のため」
「念のため、ね」
リィナがにやにやしている。その顔がうるさい。
「何」
「いや。——あんた、変わったなって」
「変わってない。合理的に——」
「合理的に、好きな奴のために布を準備するのか」
「好きとは言っていない」
「言ってないな。——じゃあ何だ」
あたしは黙った。計算を走らせた。リィナの質問に対する最適な回答を——。
計算が出力した答えは——「パートナーだから」。
それは嘘ではない。でも、全部でもない。
全部を言語化すると——プラスでもマイナスでもない。符号のつかない関係。
それを表す語彙が、あたしには——まだない。
「……うるさい」
「はいはい」
リィナが肩を叩いてきた。
あたしはその手を払わなかった。
毎日更新継続中。明日も同時刻に。
読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。
下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。




