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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


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「あたし」の在処

【「あたし」の在処】


 8年ぶりに、指輪を指から抜いた。


 世界が——変わった。


 魔力が溢れた。身体の内側から。圧縮されていた全てが一気に解放された。

 赤い光。いや——赤だけじゃない。深い紅。暗い炎の色。あたしの魔力の、本当の色。

 広間が紅に染まった。天井まで。壁まで。空気が振動する。岩が軋む。


「——なっ——」


 ガイルの声。遠い。聞こえるが、遠い。


 魔力量が——桁が違う。指輪が抑えていたのは半分ではなかった。半分以下——いや、10分の1以下だったのかもしれない。今、身体の中を流れる魔力の量は——計測不能。


 あたしの意識が揺れた。

 赤い光。8歳の時と同じ。身体が燃えるような感覚。魔力が全方向に拡散しようとしている。制御が——。


 ——制御。


 あたしは目を閉じた。

 4年間。毎秒、毎瞬、魔力を制御してきた。圧縮環境の中で。精密に。繊細に。針の穴に糸を通すように。


 その技術は——消えていない。


 目を開けた。

 赤い光が——収束した。全方向への拡散が止まった。あたしの意志で、魔力が身体の周囲に留まった。

 圧倒的な量の魔力が、精密な制御下に置かれている。高圧洗浄機の水が——川になった。だが、流れる方向はあたしが決めている。


「——消えてない」


 あたしの声が言った。


 計算する自分。合理的な自分。精密制御の自分。

 全部、ここにある。指輪がなくても。


 「あたし」は——指輪が作ったんじゃない。指輪が作った環境の中で、あたし自身が作った。


 シオンが言った通りだ。「優しさは、指輪の外にある」。——全部、指輪の外にあった。


 泣きそうになった。今じゃない。後で。


 あたしはシオンの腕を掴んだ。

 今度は——指輪なし。制限なし。全力の魔力を、精密制御で、シオンのエネルギーに同期させた。


 逆位相。だが、今のあたしの出力なら——打ち消せる。


 魔力を流し込んだ。シオンの根源エネルギーの波形に、完全に逆位相の魔力を重ねた。

 波が打ち消し合う。エネルギーが減衰する。青い光が——弱まっていく。


 シオンの肌の変色が止まった。青い脈が——後退していく。首から。胸から。肩から。紋様が右腕に戻っていく。


「——シオン。聞こえる」


「……聞こえ、ます」


「呼吸して。ゆっくり。——あたしに合わせて」


 シオンが呼吸した。あたしの呼吸に合わせて。魔力の波形と、根源エネルギーの波形が——2人の呼吸で同期した。


 光が落ち着いた。紋様が右腕に収まった。シオンの顔に色が戻った。


 同時に——あたしの魔力が、シオンの紋様と共鳴した。今度は逆位相ではなく、同位相。

 2つのエネルギーが——調和した。赤と青が混ざって、紫がかった光が広間を満たした。


 深層種が——震えていた。

 7メートルの巨体が。6本の脚で。

 あたしたちの調和したエネルギーの前で——恐怖に震えていた。


 あたしは立ち上がった。右手に魔力を集中した。

 指輪なし。精密制御。全力出力。

 魔力弾ではない。もっと高密度の——魔力の槍。1点に収束した、全ての力。


 深層種の残った左目を見た。赤黒い目が——あたしの紅い光を見ている。


「——終わり」


 撃った。


 魔力の槍が深層種の頭部を貫通した。角を砕き、頭蓋を貫き、反対側の壁に突き刺さった。

 壁に直径2メートルの穴が開いた。


 深層種が——崩れた。7メートルの巨体が、ゆっくりと横に倒れた。6本の脚が力を失って、広がった。暗紫色の靄が消えていく。


 静寂。


 あたしの手が——震えていなかった。

 8歳の時は震えていた。今は——震えていない。


 ガイルが、壁に穴が開いた方向を見て、そちらを見て、あたしを見て、もう一度穴を見た。


「……おまえ——何者だ」


「銅ランク。——今は」


「嘘つけ」


 リィナが笑った。ガイルが呆れた顔をした。


 あたしはシオンの隣に座り込んだ。魔力の消耗が——大きい。全力を出した反動。でも、暴走はしていない。制御は保たれた。


 シオンが、横になったまま、あたしを見ていた。


「——すごかった。イグリットさん」


「……馬鹿。あなたが暴走したから、こうなった」


「すみません。——でも」


「でも、何」


「イグリットさん——消えてなかった」


 あたしは——シオンの顔を見た。

 泣き笑い。涙が頬を伝っている。でも笑っている。あの太陽みたいな笑顔。


「消えてなかった。やっぱり。——よかった」


 あたしは天井を見上げた。高い天井。暗い。

 左手の薬指が——軽い。8年間ずっとあった重さが、ない。


 指輪をポケットから出した。見つめた。黒い指輪。あたしを作った枷。

 はめ直した。——今は、まだ。全力を出し続けると身体がもたない。制限は必要だ。


 でも——もう、怖くない。

 外しても「あたし」は消えない。それがわかった。


「——帰ろう。報告がある」


「はい」


 立ち上がろうとしたら、足に力が入らなかった。魔力の消耗。


 シオンが手を伸ばした。


「……引っ張るな。あたしの方が軽いから、あなたが倒れる」


「大丈夫です。——僕、力はあるので」


 シオンに引き起こされた。170センチの少年に、148センチのあたしが。

 身長差が——今だけは、悪くない。


 4人で、ダンジョンを上がった。

 広間の奥で、根源の亀裂がまだ光っていた。青白い光。あれは——まだ、塞がっていない。


 深層種は倒した。でも、異変は——終わっていない。


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