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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


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暴走と、制御の果て

【暴走と、制御の果て】


 片目の深層種が立ち上がった。

 前回より大きい。体長7メートル。角の枝分かれが6対に増えている。体表から——暗紫色の靄が漏れ出している。根源エネルギー。吸収して、変質している。


 あたしの魔力弾が顔面に命中した。——弾かれた。体表がさらに硬くなっている。


「ガイル!」


 ガイルが跳んだ。金ランクの速度。深層種の横腹に斬りかかる。剣が——食い込んだ。だが浅い。


 深層種の尾が横薙ぎ。ガイルが跳んで回避。着地。


 あたしが追撃。脚の関節に魔力弾を集中。3発、4発、5発——。1つの関節に亀裂が入った。

 だが、深層種は怯まない。6本脚の1つが折れても、5本で動ける。


 深層種が咆哮した。広間全体が振動する。天井から岩が落ちてきた。


「ブレスが来る!」


 口腔に赤黒い光が溜まる。前回より濃い。前回より——大きい。


「シオン!」


 シオンが右腕を前に出した。布越しに紋様が光る。青白い光が——ブレスの赤黒い光と対峙した。


 深層種が——躊躇った。シオンの光を見て。ブレスの構えが——揺らいだ。


 その隙。

 あたしが残った左目に全力の魔力弾を叩き込んだ。

 ——外れた。深層種が頭を振った。学習している。目を守っている。


 ブレスが放たれた。シオンの光で方向が逸れた——完全にではない。広間の壁面に直撃。壁が溶けた。崩れた。


 リィナが背後から合図を送った。退路を塞いでいる。だが——この深層種は、退路がなくても逃げない。ここは根源エネルギーの供給源。ここを守ろうとしている。


 戦闘が続いた。ガイルが斬り、あたしが撃ち、シオンが光で牽制する。

 15分。30分。深層種は傷だらけだが、倒れない。根源エネルギーを吸って回復している。亀裂の近くにいる限り——無限に回復する。


「亀裂から引き離す!」


 ガイルが深層種の注意を引いて、広間の端に誘導しようとした。だが、深層種は亀裂から50メートル以上離れない。紐で繋がれているように、一定距離で方向転換する。


 消耗戦。あたしの魔力が——残り3割を切った。


「イグリット——もう限界だ」


 ガイルが膝をついた。腕の裂傷が深い。


「——シオン。光を、もっと強く出せるか」


「やってみます——」


 シオンが布を掴んだ。そして——解いた。自分から。

 右腕の布が落ちた。青い紋様が——露出した。


 光が広間を満たした。

 青白い光。渓谷の時の比ではない。ダンジョンの第5階。根源エネルギーの漏出点のすぐそば。紋様が根源と共鳴して——出力が跳ね上がった。


 深層種が悲鳴を上げた。今度こそ——本気の恐怖。全身を震わせて、亀裂から離れようとしている。


「——うぁ——」


 シオンの声。苦痛の。


 紋様の光が——制御を超えた。シオンの腕だけでなく、肩に、胸に、首に——青い脈が広がっていく。皮膚の下を走る青い光が、全身に拡散している。


「シオン!」


 シオンが膝をついた。両手で自分の腕を押さえている。光が止まらない。


「止まらない——僕——止められない——」


 根源エネルギーが暴走している。シオンの身体が、根源のエネルギーを際限なく取り込んでいる。漏出点のそばで——フィードバックが止まらない。


 あたしはシオンの腕を掴んだ。逆位相——前回と同じことを。

 魔力を流し込んだ。逆位相。シオンのエネルギーと同期して、打ち消す——。


 ——打ち消せない。

 出力が桁違いだ。前回の10倍。あたしの指輪越しの魔力では——足りない。


「イグリット——シオンの身体が——」


 リィナが叫んだ。


 シオンの肌が——変色し始めていた。右腕が青く。紋様が肌の表面に浮き上がってきている。

 変異。根源エネルギーの過剰摂取による——変異の始まり。


 このままでは——シオンが人間の形を失う。


「——指輪を」


 あたしの声が、震えていた。


 外すしかない。指輪を外して、全力の魔力でシオンのエネルギーを抑え込むしかない。

 でも——外したら——。


 8歳の記憶が甦る。赤い光。崩れる建物。叫び声。

 あたしが消える。計算する自分が消える。合理で武装した自分が——。


 シオンの目が、あたしを見ていた。

 苦痛で歪んだ顔。青い光に侵食される身体。それでも——あたしを見ている。


「イグリッ……ト、さん——」


 あの目。信頼の目。「大丈夫」と言ってほしい目。


 ——計算は、もういい。


 あたしは左手の指輪に、右手をかけた。


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