第5階と、封印の底
【第5階と、封印の底】
第5階への降下は、少数精鋭で行った。
メンバーはあたし、シオン、リィナ、ガイル。4人。
ハルグと銀ランクの隊員は第4階で待機。退路の確保と、万が一の増援。
「4人で深層種を狩るのか。正気か」
ガイルが苦笑した。
「大勢で行くと逃げられる。あの個体は学習する。前回、側面から封鎖線を迂回した。今回も——大部隊で来たら、別のルートで逃げる」
「少数で追い込んで、逃げ場を塞いで仕留める。——おまえらしいな」
「合理的なだけ」
リィナが先行偵察。あたしが中衛。ガイルが前衛。シオンが——あたしの10メートル以内。
第5階は、異質だった。
空気が違う。魔力が——濃いのではなく、重い。呼吸するだけで身体が圧迫される感覚。浅層とは根本的に異なる環境。
壁面が変色している。灰色の岩肌が、所々で暗紫色に染まっている。根源エネルギーの浸食痕。フィルターが機能していない証拠。
「——第5階がこれか。深層はどうなってるんだ」
ガイルが壁に触れて、手を引っ込めた。壁が熱い。
シオンの右腕が——反応し始めた。
布の上から、微かに光が漏れている。前回ほど激しくない。でも、脈動が始まっている。
「シオン。大丈夫か」
「——大丈夫です。前よりは——制御できてる気がします。熱いけど、痛くはない」
制御できている。シオン自身が、紋様のエネルギーを——意識的に抑えている?
3週間の安静中に、あたしが逆位相で抑え込んだ感覚を——覚えているのか。自分で、同じことをしている?
シオンの成長速度が——また、跳ね上がっている。
リィナが戻ってきた。顔が白い。
「いた。200メートル先。大きい空間がある。——あいつ、その中にいる。動いてない」
「罠か」
「わからない。でも——その空間の中心に、何かある。岩——じゃない。光ってる。地面から——青白い光が」
青白い光。
あたしの指輪が、ジワリと熱を帯びた。
シオンの右腕の紋様が——わずかに、光を強めた。
「——根源」
あたしの声が、自分でも小さかった。
「フィルターが完全に壊れた区画。第5階の最奥部。そこから——根源エネルギーが直接漏出している」
「根源——?」
「この世界の魔力の源泉。ダンジョンの最深部に封印されている——はずのエネルギー。それが、フィルターの損傷で——地表に向かって漏れ出している」
ガイルの顔色が変わった。
「そんな話——聞いたことがない」
「聞いたことがないから、誰も対処できていない。——あたしの報告書に書いた。アウレクスが握り潰した方の」
ガイルが言葉を失った。
4人で、その空間に向かった。
通路が広がる。天井が高くなる。自然の洞窟ではない——人工的な構造が残っている。古い。非常に古い。壁面に刻まれた模様が、風化しながらも残っている。
ダンジョンは自然物ではない。古代の多層封印装置。この壁面の模様は——その名残。
空間に出た。
巨大なドーム状の広間。直径100メートルはある。天井は見えない。暗い。
中央に——亀裂があった。
地面に走る、長さ20メートルほどの裂け目。そこから——青白い光が漏れている。光が霧のように広間を満たしている。
根源エネルギーの漏出点。フィルターが物理的に裂けた場所。
そして——亀裂の横に、片目の深層種が座っていた。
丸まっている。巨体を縮めて。片方しかない目を閉じて。
寝ているのか——いや。
吸収している。亀裂から漏れる根源エネルギーを、身体に取り込んでいる。
「——あいつ、でかくなってないか」
ガイルが呟いた。
前回より——一回り大きい。角の枝分かれが増えている。体表の暗紫色が、より深くなっている。
根源エネルギーを吸って、進化している。
「あいつを倒さないと——この亀裂から、際限なくエネルギーが漏れる。深層種が増える。フィルターがさらに壊れる」
「わかった。——どうやって倒す」
あたしは計算した。片目の深層種。前回より大きい。だが、弱点は変わらない。残った左目。喉元。腹部の柔らかい部分。
ガイルの金ランクの剣技。リィナの偵察と誘導。シオンの紋様——深層種を怯ませる効果。あたしの精密魔力弾。
4人の連携で——できるか。
計算結果。——27パーセント。指輪をつけたままでは。
低い。でも、やるしかない。
「ガイル。正面から行く。リィナは背後に回って、逃走経路を塞ぐ。シオンは——あたしの近くにいて。紋様の光が、あいつを怯ませる。それを利用する」
「了解」
「——行く」
あたしは魔力を灯した。赤い光。全力。
片目の深層種の——残った左目が、開いた。
毎日更新継続中。明日も同時刻に。
読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。
下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。




