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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


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共鳴と、紋様の目覚め

【共鳴と、紋様の目覚め】


 シオンが広間に入った瞬間、2体の深層種が——止まった。

 ブレスの構えが解除された。口腔の光が消えた。

 赤黒い目が——シオンを見ている。2体とも。あたしでも、金ランクでもなく——シオンだけを。


 渓谷と同じ反応。深層種は、シオンの中にあるエネルギーを——感知している。


 シオンの右腕が——光っていた。

 布の上から。藍色の布を透過して、青白い光が漏れている。走ってきた衝撃か、興奮か、あるいはダンジョンの濃い魔力環境に反応して——紋様が活性化している。


「——なんだ、あの光は」


 ハルグが呟いた。


 あたしの指輪が共振している。渓谷より強い。指輪の下で、あたしの魔力が脈動している。シオンの紋様が放つエネルギーと——同期している。


 深層種2体が、後退した。1歩。2歩。

 怯えている。あのエネルギーに。渓谷と同じ——いや、もっと強い反応。今、シオンの紋様が放つエネルギーは、渓谷の時より濃い。ダンジョン内の根源エネルギーと共鳴して、増幅されている。


「シオン——」


 シオンが右腕を押さえた。痛いのか。光が強くなっている。布の隙間から、青白い脈が脈動するのが見える。


「——なんか、腕が——熱い——」


 深層種の片方が——咆哮した。恐怖の咆哮。そして——逃げようとした。広間の奥に向かって。


 もう1体が追随する。2体とも、シオンから離れようとしている。


「逃がすな! 今!」


 あたしが叫んだ。


 金ランクの2人が動いた。ガイルが逃げる深層種の後脚を斬った。もう1人が反対側の脚を。

 銀ランクが弓を射る。目を狙う。1本命中。

 あたしが全力の魔力弾を——残った魔力の全てを圧縮して、喉元に叩き込んだ。


 1体が倒れた。足が止まり、バランスを崩し、広間の床に崩れ落ちた。


 もう1体——片目の個体——が、壁を突き破って逃走した。第5階への通路に。地響きが遠ざかる。


「深追いするな! 1体は仕留めた!」


 ハルグの声。


 広間に静寂が戻った。深層種の巨体が、床に横たわっている。暗紫色の体表。折れた角。潰れた目。

 あたしたちが——倒した。


 でも——あたしの目は、深層種ではなく、シオンに向いていた。


 シオンが膝をついていた。右腕を押さえている。光が——まだ消えていない。布の下で、紋様が脈動している。呼吸が荒い。


「シオン——」


 駆け寄った。シオンの顔が蒼白だった。汗が浮いている。


「腕が——止まらない——熱い——」


 紋様のエネルギーが、シオンの制御を超えて活性化している。ダンジョンの根源エネルギーと共鳴して、フィードバックループが——。


 あたしの指輪が、さらに強く共振した。痛い。指が灼ける。

 でも——今は、その共振を利用できるかもしれない。


 あたしはシオンの右腕を、両手で掴んだ。布の上から。

 指輪の共振を通して、シオンの紋様のエネルギーを——感じ取る。波形。脈動のリズム。


 ——逆位相。あたしの魔力を、シオンのエネルギーと逆位相で流し込めば、相殺できる。理論上は。


 やったことはない。でも、精密制御の応用だ。

 指輪越しに、微量の魔力をシオンの腕に流した。紋様のエネルギーと逆の波形。同期させて——打ち消す。


 シオンの呼吸が、少しずつ落ち着いた。光が弱まっていく。脈動が収まる。


「——大丈夫。大丈夫だから」


 また、この言葉。計算ではない言葉。


 シオンの目が、あたしを見ている。涙は——今回は、ない。代わりに——信頼がある。あたしを信じている目。


 広間の全員が、2人を見ていた。

 ガイルが剣を下ろして、無言で立っていた。ハルグが負傷者の手当てに戻った。リィナが入口の方を見張っている。


 片目の深層種が、第5階に逃げた。まだ1体残っている。

 ダンジョンの異変は——終わっていない。


 でも今は。

 今だけは。


 シオンの腕を握ったまま、あたしは息を吐いた。


「——だから、来るなって言ったのに」


「すみません。——でも、来てよかったです」


「よくない。全然よくない」


「イグリットさんが無事で——よかった」


 反論のための計算式が、今日も起動しない。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


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