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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


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アウレクスの影

【アウレクスの影】


 翌日。ギルドの資料室。

 「漏出ニ適合セシ者」の記述を追っていた時、別の文書に引っかかった。


 古い報告書の束に紛れた、比較的新しい紙。日付は——1年前。

 ギルドの内部文書ではない。盟約の——アウレクスの章が押してある。


 なぜこれがギルドの資料室にあるのか。盟約の内部文書が、なぜ。

 封筒の宛名を見て、察しがついた。1年前のギルド本部宛——おそらく、アウレクスから情報共有として送られたものの、ギルド側で適切に分類されないまま資料室に紛れ込んだ。アウレクスの計算ミスか、ギルド内部の処理の杜撰さか。どちらにしても——あたしには都合がいい。


 読んだ。


 「根源エネルギー利用可能性に関する予備調査(内部限定)」


 内容は——あたしの推測を裏付けていた。

 アウレクスは少なくとも1年前から、フィルターの劣化と根源エネルギーの漏出を認識していた。そして——対処ではなく「利用」を志向していた。


 根源エネルギーを制御・利用する方法を研究する計画。深層の鉱物を用いた魔力増幅装置の試作。漏出が進行すれば、根源エネルギーへのアクセスが容易になるという記述。

 ——フィルターの劣化を止めるのではなく、劣化から利益を引き出そうとしている。


 あたしの報告書が握り潰された理由が、数字ではなく文章で書かれていた。

 「異変の公表は現段階では不適切。他盟約およびギルド本部への情報漏洩を防止し、研究の先行優位を確保する」


 情報の独占。利権の確保。冒険者2人の死亡を「想定内の損失」として記載。


 あたしの手が震えた。怒りではない。——いや、怒りだ。数字が裏付ける怒り。

 3ヶ月前、あたしが報告書を出した時に対策が取られていれば——あの2人は死ななかった。灰角獣は浅層に出なかった。リィナは怪我をしなかった。シオンは深層種に吹き飛ばされなかった。


 全部——防げたはずのことだ。


 報告書の末尾に、もう1つ。

 「適合体に関する調査:要継続。サンプル未確認」


 適合体。

 あの古い文書と同じ用語。「漏出ニ適合セシ者」。

 アウレクスは——漏出適合体の存在を理論として把握していた。ただし、実在するサンプルはまだ見つけていない。


 1年前の時点では。


 今は——シオンがいる。渓谷で紋様が露出した。あの場にはリィナしかいなかった。リィナは何も喋らないだろう。でも——アウレクス自身が独自に調査を進めている。渓谷の深層種を倒したのは誰か。深層種が逃げた理由は何か。いずれ、アウレクスの目がシオンに届く。


 報告書を元の場所に戻した。メモは取らなかった。頭に入れた。数字と文章を、全部。


 資料室を出た。


 ——シオンを守る。

 守る。何から。

 ダンジョンの深層種から。そして——アウレクスから。


 安宿に戻った。シオンの部屋に寄った。

 シオンが訓練用の素振りをしていた。軽い木剣。完治までの段階的リハビリ。動きは鈍いが、形は崩れていない。身体が覚えている。


「イグリットさん。——今日、顔が怖いです」


「怖くない」


「怖いです。何かありました?」


 この少年は——あたしの表情の変化を、あたし以上に正確に読む。


「……あとで話す。今は、訓練に集中して」


「はい」


 シオンが素振りを再開した。木剣が空を切る音。規則正しいリズム。

 あたしは壁にもたれて、その音を聞いていた。


 守る。

 この少年を。ダンジョンの異変からも、アウレクスの思惑からも。

 そのために必要なのは——あたしの全力だ。指輪をつけた状態の「全力」ではなく。


 覚悟が、少しずつ形を結んでいく。まだ完全ではない。でも——輪郭は見えてきた。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


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