赤い光の記憶
【赤い光の記憶】
夜。安宿の自室。
ベッドに座って、天井を見ている。シミが7つ。変わらない。
指輪を外す。
その言葉が頭の中で反復している。
外したら——何が起きる。
8年前に外した時のことを——思い出す。思い出さないようにしてきたことを。
——赤い光。
視界が全部赤くなった。暗い赤ではなく、明るく燃える赤。自分の身体の中から噴き出す光。空気が震える。地面が揺れる。
町の建物が——壊れていく。石壁が崩れる。屋根が吹き飛ぶ。あたしの手から放たれた何かが、半径数十メートルの全てを薙いだ。
悲鳴が聞こえた。叫び声。逃げる人影。倒れる人影。
あたしは——動けなかった。止め方がわからなかった。手から出る赤い光を止められなかった。泣いていた。泣きながら、壊していた。
誰かが来た。
覚えていない顔。でも——手だけ覚えている。大きくて、硬くて、温かい手。あたしの左手を掴んで、指に何かを嵌めた。冷たい金属の感触。
赤い光が——止まった。
身体の中で暴れていた何かが、急速に収縮していく。圧縮される感覚。高圧洗浄機のノズルを絞るように。魔力が狭い管を通されて、細く、細く。
「これを外すな」
声だけ覚えている。低い声。男の声。
顔は——思い出せない。そこだけ、記憶に霧がかかっている。
それ以降のことは断片的だ。
施設に入った。エルドヴァレスの孤児収容施設。指輪を嵌めたまま。4年間。
指輪の中で、魔力の制御を覚えた。生き延びるために。圧縮された魔力が身体を壊さないように、毎秒、毎瞬、精密に管理した。
その過程で——あたしは「あたし」になった。数字で考える。感情を棚に上げる。効率を最優先にする。
全部、指輪が強制した生存適応だ。
指輪を外したら——あの4年間で積み上げた全てが、意味を失うかもしれない。
精密制御は指輪の圧縮環境で生まれた技術だ。環境がなくなれば——技術も消えるのではないか。
あたしの性格は指輪が作った。外したら——「計算する自分」が消えて、「暴走する子供」が戻るのではないか。
あたしが怖いのは、深層種ではない。暴走でもない。
外したら、「あたし」が消えること。
あたしのアイデンティティが——指輪の中にしかないこと。
目を閉じた。
赤い光の記憶。壊れた建物。泣いている子供。
8年前のあの子は——今のあたしではない。でも、指輪を外したら——。
左手の指輪に触れた。冷たい。いつも冷たい。
この冷たさが——あたしの基準温度だ。8年間。
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