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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ


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加速する崩壊と、第2階の兆候

【加速する崩壊と、第2階の兆候】


 シオンの安静期間中も、ダンジョンの状況は止まらなかった。


 ギルドの週次報告。あたしは毎週、掲示板と資料室でデータを拾っている。


 第5階封鎖から2週間。銀ランクの討伐隊が常駐し、第4階までの灰角獣は概ね駆除された。だが、第5階の奥——あの深層種がいた区画から、新たな個体の気配が断続的に検出されている。

 討伐隊の報告:「封鎖線の向こう側で、何かが動いている。複数」。


 それだけではない。

 第3階の魔物密度が、先月比で1.4倍。第2階——初心者が入る最浅部——で、通常は出現しないはずの角蛇が目撃された。1件。まだ1件。でも、角蛇は本来、第4階以深の魔物だ。


 フィルターの劣化が、浅層の最上部にまで及び始めている。


 リィナと2人でギルドの報告窓口に行った。今度は受付ではなく、管理部門の責任者を指名した。

 報告書を出した。データつき。グラフつき。リィナの現場証言つき。


 管理部門の責任者——中年の男、名前はグレイフ——が報告書を読んだ。


「……これは、確かなのか」


「データで示しています。第2階の東側で岩盤にひび割れを確認しました。フィルター層の物理的な損傷です」


「フィルター層、というのは——」


「過去の報告書で使ってきた呼称です。ダンジョンの各階層が深層からの何かを濾過している、という仮説。その濾過構造そのものが、物理的に壊れ始めている——という意味です」


「第2階の損傷が進行した場合——」


「最悪のシナリオでは、第1階への浸透が始まります。第1階はダンジョン入口と直結しています。つまり——市街地への影響が出る」


 グレイフの顔色が変わった。


「討伐隊の増員と、第3階以深の完全封鎖を提案します。それと——第5階以深に何がいるのか。正確に調査する必要があります」


「銀ランクの討伐隊でも、第5階以深は——」


「金ランクが必要です。——あるいは、それ以上の火力が」


 グレイフは察しただろうか。あたしが元金ランクであることは、ギルドの記録にある。


「……検討する。報告書は受理した」


 ギルドを出た。

 リィナが溜息をついた。


「『検討する』か。どこの組織も同じだな」


「でも、受理はした。前よりマシ」


「マシ、ね。——イグリット。あんた、本気で第5階の下に潜るつもりか」


「必要なら」


「1人で?」


 あたしは答えなかった。

 1人で——渓谷の深層種に、あたしは1人では勝てなかった。指輪を外さない限り。


 指輪を外す。

 その選択肢が——初めて、形を持ってあたしの中に現れた。


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