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「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ
割に合わない

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2つの枷と、同じ鉱物

【2つの枷と、同じ鉱物】


 夜、安宿の部屋。

 ベッドの上にメモを広げた。布の繊維データと、指輪の魔力反応データ。


 蒼鉛石——布の染料に含まれる深層鉱物。魔力の伝導を遮断する。

 あたしの指輪の素材——ダンジョン深層の鉱石から精製された特殊合金。魔力を圧縮する。


 機能は違う。遮蔽と圧縮。でも、素材の由来は同じだ。ダンジョンの深層から産出される、根源に関連した鉱物群。


 あたしは「フィルター」の仮説を思い出した。

 ダンジョンは根源を濾過するための多層構造。各階層がフィルターとして機能し、深層から昇ってくる何かを段階的に希釈している。その過程で産出される鉱物は——その何かに対して特殊な性質を持つ。


 指輪は、あたしの過剰な魔力を圧縮する。

 布は、シオンの右腕にあるものを遮蔽する。

 どちらも——「力を制限する」装置だ。


 あたしの指輪は、暴走する魔力を押さえ込んでいる。

 シオンの布は、何かを隠している。

 同じ系統の鉱物で作られた、2つの枷。


 ——では、布が遮蔽しているものは何だ。

 シオンの右腕の下にあるものは何だ。


 探知で「空白」に映る領域。蒼鉛石が遮蔽している何か。母親が「隠しなさい」と言った何か。


 深層の漏出に関連する何か。

 魔力探知に反応する何か——いや、反応しすぎる何か。だから遮蔽が必要なのだ。


 あたしの指輪と同じだ。あたしの魔力が大きすぎるから、指輪で圧縮している。シオンの腕にあるものが——何かを放出しているから、布で遮蔽している。


 あたしの手が震えた。恐怖ではない。

 既視感だ。


 自分の力を隠すために枷を嵌められた子供。

 ——それは、あたし自身だ。


 8歳の時。魔力が暴走して、町を壊した。誰かが指輪を嵌めてくれた。「これを外すな」と。理由は——わかっていた。外したら、また壊す。

 シオンの母親も同じだ。息子の腕に何かが現れた。「これを巻いておきなさい」。理由は——たぶん、直感。外したら、何かが起きる。


 あたしたちは——同じだ。

 口にはしない。でも、確信が芽生えている。


 この少年と、あたし。

 同じ深層の鉱物で作られた装置を、身体に嵌めている。

 同じ系統の「何か」を、制限している。


 偶然か。

 偶然だろう。エルドヴァレスの下層で出会った。ギルドの掲示板で。暗算3秒で受けた護衛依頼で。

 全部、偶然だ。


 ——でも、偶然にしては、線が太すぎる。


 メモを閉じた。

 天井の染み。7つ。変わらない。あたしは変わった。

 変わったのは——あたしだけじゃない。世界が変わっている。フィルターが劣化し、根源の漏出が増え、魔物の分布が崩れ、街道が危険になり、村が追い詰められている。

 その世界の中で——あたしとシオンは、同じ鉱物の枷を持っている。


 今は考えない。まだ足りない。布の下にあるものを確認しない限り、推測の域を出ない。


 確認する方法は——1つしかない。シオンに見せてもらう。

 でも、「見せて」と言うことは、「あなたは普通じゃない」と言うことだ。


 あたしにそれを言う資格があるのか。あたし自身が「普通じゃない」人間なのに。


 目を閉じた。指輪が重い。いつもの重さ。8年間の重さ。

 ——でも今日の昼間、シオンが「嘘ですね」と言った声を思い出すと、その重さが少しだけ変わる。

 嘘を見抜く少年の前で、あたしはいつまで嘘をつけるだろう。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


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