刻印鍛冶師の到着と、口の悪い4人目
【刻印鍛冶師の到着と、口の悪い4人目】
朝。
ギルドからの伝令が、安宿の食堂に来た。
「イグリットさん。ミクト=マルヴェルン到着。ギルド本部1階のロビーで待たれています」
「了解。すぐ行く」
あたしは朝食のパンを最後まで食べきって、立ち上がった。
シオンとニーヴも、すでに準備を終えていた。
「行こう」
「ミクトかー。会うの久しぶりやな」
ニーヴが言った。
あたしは、足を止めた。
「ニーヴ。あなた——ミクトと知り合い?」
「知り合いや。カルタレスで何度か仕事一緒した。半年くらい前が最後やったかな」
「そういう情報、もっと早く言って」
「言うほどのことやない。鍛冶師は鍛冶師、薬師は薬師や。たまたま現場で顔合わすことがあるレベル」
あたしは、納得しきれなかったが、頷いた。
ニーヴ経由でミクトの人柄も少し見通せるなら、悪い話じゃない。
3人で、ギルド本部に向かった。
ロビーに着いた。
窓際のソファに——銀髪の男が座っていた。
長い前髪が左目を半分隠している。黒い革のエプロン、灰色のハイネックシャツ、黒いワークパンツ。背中に折りたたみ式の携帯鍛冶道具一式を背負っている。
両手の甲に火傷の古い痕が複数。職人の手。
ミクト=マルヴェルン。
あたしたちが近づくと、その男は立ち上がった。長身。176センチ。シオンより6センチほど高い。
「お、来たな。3人——いや、4人になる予定の人たちか」
声が、明るい。
顔も、温かい。
第一印象が——驚くほど、敵意のない男だった。
「俺、ミクト。ヘルムガルドから来た。よろしく頼む」
ミクトが、片手を差し出した。
あたしも、握手した。手が大きい。指が長い。鍛冶師の手。
「イグリット=アシェンド。銀ランク」
「シオン=サルヴェインです。銅ランクです。よろしくお願いします」
シオンが、いつもの丁寧な挨拶。
ミクトが、シオンの目を見て、にっと笑った。
「お、いい目してるじゃねぇか。お前が剣使うんだろ」
「あ、はい。安物ですけど」
「安物でも、使い手次第だ。後で見せてくれ。打ち直せるかも」
ミクトの目が、次にニーヴを見た。
「ニーヴ。久しぶりだな」
「半年ぶりや」
「相変わらず、薬瓶ベルトが重そうだな」
「重いで。あんたも、相変わらず鍛冶道具一式背負っとるな」
「これがないと、仕事にならねぇ」
2人が、軽口を交わした。
昔からの知り合いの距離感。
あたしの中で、計算が走った。
ニーヴ=19歳、ミクト=20歳。年が近い。カルタレスとヘルムガルドは大陸の真逆だが、職人同士の交流があるらしい。
「ニーヴ、新パーティに入ったって聞いた時、驚いたぞ」
「うちも、自分で驚いとる」
「相性、ええんか?」
ニーヴが、あたしとシオンを順番に見た。
「……まあ、悪くない」
あたしは、口角が上がりそうになるのを、隠した。
「悪くない」は、ニーヴ語の最上級に近い評価。
ミクトが、それを見て、にやっと笑った。
「了解だ。じゃ、俺もこれから世話になる。よろしくな、4人目として」
「4人目。——あなた、自分で『4人目』って自覚あるんだ」
「あるさ。3人で動いてた『符号なし』に俺が入る。4人目に決まってる」
あたしは少し、意外な顔をした。
ミクトは——気さくだけじゃない。自分の立ち位置を正確に理解している。
ギルド受付嬢が、近づいてきた。
「ミクトさんは、技術顧問として、調査チームに正式加入の手続きをお願いしたいのですが」
「あいよ」
ミクトが、ギルド受付に向かった。
あたしたちは、ロビーで待った。
シオンが、横で小声で言った。
「ミクトさん——いい人、ですね」
「うん」
「ニーヴさんと知り合いだったの、びっくりです」
「あたしも」
ニーヴが、横で肩をすくめた。
「言わんでも、すぐ判明したやろ」
その通り。
あたしの計算には、まだ反映しきれない人脈が、3人の周りには——たぶん、もっとある。
書類手続きは10分で終わった。
ミクトが戻ってきた。
「正式に入った。じゃ、宿屋案内してくれ。安宿でいいんだろ?」
「いい。あなた、上層育ち?」
「ヘルムガルドの鍛冶街育ちだ。下層の方が、性に合ってる」
あたしは、頷いた。
4人で、ギルドを出た。
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