表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「割に合わないので、辞めます。」 ——元金ランクの天才魔道士、全部計算で解決したかったのに計算外の相棒ができました——  作者: わんだ
割り切れない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/104

祖父の手記と、変異種の結晶

【祖父の手記と、変異種の結晶】


 安宿に着いた。

 安宿のおやじが、ミクトの部屋を確保していた。あたしたちの部屋から、廊下を1つ挟んだ向かい。


「狭いな。でも、十分だ」


 ミクトが、部屋の中を見回して、頷いた。

 持ってきた荷物——大きな革袋と、背中の鍛冶道具——を、ベッドの脇に置いた。


「装備、後で見せて」


 あたしが言った。


「ああ、それな。ちょっと話があるんだが——4人で集まれるか?」


「うちの部屋、来る?」


 ニーヴが提案した。

 あたしの部屋は狭い。ニーヴの部屋は——薬瓶整理のスペースを除いても、4人座れる広さがある。


 4人で、ニーヴの部屋に移動した。


 ミクトが、革袋から、古い革装丁の手帳を取り出した。

 黒く変色した表紙。角が擦り切れている。


「これ、俺の祖父——ヴィルヘルムの手記だ。10年前に祖父が深層に行ったきり戻ってこなくて、これだけが残された」


 ミクトの声が、少し低くなった。


「祖父は『深層鍛冶』って異名で呼ばれてた、深層鉱物を扱える数少ない鍛冶師だ。この手記には、その技術の断片が書かれてる」


 あたしは、その手帳を、近づいて見た。

 古い紙。インクが薄くなっている部分もある。表紙には何も書かれていない。


「読める?」


「半分くらいは、俺も解読できてる。残りは——暗号混じりだ。祖父が、誰にも読まれないように仕掛けてる」


「なぜ、それを今、見せた」


「あんたの指輪を見たいから」


 ミクトが、まっすぐ言った。

 あたしは、左手の薬指を見た。

 黒い指輪。


「俺の祖父の手記の中に、こういう一節がある——『師匠が最後に作った作品は、ある少女のための圧縮装置。指輪型』」


 あたしの心臓が、一拍、強く打った。


「師匠?」


「祖父の師匠だ。名前は不明。手記の中では『師』としか書かれてない。祖父も詳しいことは書き残してない」


 ミクトが、あたしの指輪を、見ていた。

 まっすぐに。だが、まだ触ろうとはしない。


「あんたの指輪を、見せてもらえるか? 外す必要はない。じっくり観察したいだけだ」


 あたしは、考えた。

 計算上、リスクは低い。ミクトは技術顧問として正式登録された。ニーヴが知り合いと保証している。

 そして——指輪の謎が解ければ、計算外の変数が、1つ減る。


「いい」


 あたしは、左手をミクトの方に差し出した。


 ミクトが、慎重に、指輪を観察した。指で触れる前に、目で。

 ルーペを取り出して、何分か、見ていた。


 その間、シオンとニーヴと、あたしは、黙って待った。


 ようやく、ミクトが顔を上げた。


「——間違いない。祖父の師匠の作品だ」


「根拠は」


「合金の組成。表面の刻印の彫り方。深層鉱物の精製度。——祖父の手記に書かれた『師の技法』と一致する。それも、こんなレベルで作れる人間は、たぶん、もう、この世にいない」


 あたしは、自分の指輪を、見た。

 8年間ずっと、薬指にあったもの。

 それが、ヘルムガルドの鍛冶師ヴィルヘルムの、そのまた師匠の作品だった。


「師匠の名前——本当に、わからない?」


「わからない。けど、手がかりは、ある。手記の暗号部分が解ければ、出てくる可能性は高い」


「解ける見込みは」


「俺の知識だけでは、難しい。でも、エルドヴァレスのダンジョンで、もしかしたら手記の他の部分が解ける可能性がある。古代の刻印を直接見られるなら」


 あたしの中で、計算が組み立てられていく。

 ミクトの祖父——ヴィルヘルム=マルヴェルン。

 その師——名前不明、深層鉱物の鍛冶師、あたしの指輪の作者。

 ミクトの加入は、偶然じゃない。少なくとも、半分は。


 ニーヴが、横で言った。


「ミクト。あんた、それ知ってて、こっち来たんか?」


「いや。来てから、確証を得た。最初は『あの合金を扱える人間と接触したい』程度の動機だった」


 ミクトの目が、誠実だった。

 計算で嘘をついている目じゃない。


「分かった。手記の解読、協力できる範囲で協力する」


「助かる」


 ミクトが、頷いた。


 会話が落ち着いたところで、あたしは、ポーチから小さな袋を出した。


「ミクト。これを見てほしい」


「何だ?」


「昨日、第5階で倒した変異種の素材」


 袋の中身を、ニーヴの机に出した。

 爪の一部、皮膚の一部、内臓の一部。


 ミクトが、ルーペで観察した。


「これ——古代鉱物に似てる」


「古代鉱物?」


「祖父の手記に出てくる、深層鉱物の前段階の物質。根源エネルギーが、地下の鉱物層に作用して生じる、結晶化現象の一種だ」


「変異種の組成と、それが似てる?」


「似てる。完全に同じじゃないが、構造の一部が共通している。——興味深い」


 ニーヴが、横で頷いた。


「うちが解剖学的に出した結論と、ミクトが鉱物学的に出した結論——両方が、同じ方向を指しとる。変異種は、根源エネルギーが地下水脈や鉱物層と反応して生まれた、新しい生命体や」


 あたしの中で、計算が、もう一段、進んだ。


 変異種、古代鉱物、指輪の合金、祖父の手記、根源エネルギー。

 全部が——たぶん、同じ系統に繋がる。


「ミクト。装備調整、どれくらいかかる」


「シオンの剣を打ち直すのと、俺自身の道具のメンテナンス——2、3日くらいだな」


「分かった。その間、あたしたちは別のことを進める。明後日、村への定期便がある」


「俺は留守番。それでいい」


 計画が、組み上がった。

 ミクトの本格合流は——3日後あたりから。


毎日更新継続中。明日も同時刻に。


読者の皆様からの評価・ブクマという「報酬」が、執筆効率を劇的に跳ね上げます。

下にある☆☆☆☆☆のタップは、この物語への最も効率的な投資です。ぜひ支援をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ