[箸休め] それぞれの連休
愉快なのはお客様だけではない。
小売業には、個性的な人間が多く働いているように思う。
仕事が出来なくてもそうそうクビにならないせいなのか、一風変わった人が揃っていて、毎日話題に尽きない。
箸休めに、そんな愉快な仲間達 従業員を紹介したい。
世の中が連休の時は、繁忙期なので休まず、皆被らないよう閑散期にずらして休みを取っている。
連休取得を敢えてみんなに伝えておかなくても、休む前には纏めて発注をしておかないといけなかったりと、バタバタと忙しくしているから、傍から見ていても連休を取ろうとしているのはバレバレなのだ。
皆、連休の使い方は様々だ。
〈ケース1〉中野さん
ぽっちゃりずんぐりむっくり、短めの七三分けヘアに目つきの悪い細目黒縁メガネ、毛穴全開団子っ鼻の先輩中野さん。(決して悪口じゃない特徴を伝えただけだ。)
年齢は32歳だった気がするが、とても30代には見えない見た目て、実年齢より一回りほど老けて見える。(決して…悪口じゃないと思いたい。)
仕事振りは要領がいいと言うより、しれっと他人に仕事を押し付けて、自分は楽をするタイプだ。
例えば、たくさん発注をしておいて、その商品が納品される日は休み!ってパターンが多い。
納品日に休みだった場合は、その日出勤をしている人達が皆で手分けして片付けてくれるのだ。それを中野さんは、いつも利用している。
レジにいる時は、チャームポイントの団子鼻もしくは毎日洗っているとは思えないギトギトの髪の毛を掻きむしるようにして頭の脂を利用して、ビニール製のショッピングバッグを開けて、何食わぬ顔で購入してもらった商品を入れてお渡ししている。
僕だったら絶対にこの人のレジには並びたくない。
ある日、僕が間口の狭い細長い倉庫(通称うなぎ倉庫)に在庫を取りに行った時のことだ。
扉を開けると、鼻の奥をツンと突くような、嫌な生乾き臭が倉庫いっぱいに広がっていた。
庫内もモヤがかかったように白っぽい。
誰かが奥の方で仕事をしている熱気だ。
この臭いといえば、中野さんじゃないかな?
ちょこっと事務所に居ただけだけでも、さっきまで居たのが分かる残り香があるのだ。
よーく目を凝らしてみると、やっぱり中野さんが奥の方に居た。
どうりで、出勤のはずなのに見かけないなと思っていたら、昼間から売場にも出ず、自分の仕事をこなしているずるい人だ。
『中野さん、連休を取るんですか?』と挨拶程度に声を掛けてみた。
『そうなんだよねぇ。』嬉しそうに返事をする中野さん。
何か聞いてくれと言わんばかりの満面の笑みを向けてくるので、正直どうでもよかったが、『中野さん、連休はどこか行かれるんですか?』と聞いてあげた。
すると、中野さんの口から驚く事に、彼女と出掛ける予定があると嬉しそうな答えが返ってきた!
えっ…中野さん彼女が居たんだ!
人は見た目や臭いじゃない!!んだ。
これは根掘り葉掘り聞いてあげなきゃと、話を掘り下げることに…
少し前から付き合っている彼女が居ると嬉しそうに話してくれた。川島なおみに似ているんだそう。
しかも、免許を持っていない中野さんに変わって車の運転までしてくれるらしい。
中野さんにもついに春が来たんだなぁと、幸せのお裾分け気分で話を聞いていたら…んっ??
待てよ!
中野さんはいつも助手席でバケツを持って乗っているんだそうで、デート先はカフェが多く、彼女がお茶をしている間に持ってきたお掃除道具で彼女の車を洗車しているんだと。
また別の日は、彼女の犬の散歩のお手伝い。
2人で散歩しているかと思いきや、1人でワンコを連れて行くのだと。
もちろん彼女のお家に上がらせてもらった事はないらしい…
嬉しそうに話し続ける中野さんに、それは…付き合っているとは言わないのではないか??とはとても言えず。
恋は盲目。
そんな連休でも本人が幸せならよいのかもしれない。
〈ケース2〉後藤さん
この人はリアルハリー・ポッターと呼ばれるくらいの見た目で、性格はのび太くんがそのまま大人になったような後藤さん。
学生の時から同じ顔だろうと思われる童顔だけれど口周りの青い30歳。
天然で抜けているところがあって、失敗しては笑ってしまうので怒られる事はあるが怒る事のない先輩だ。
例えば、お客さんの来店日には必ず入荷を間に合わせますと約束をしておいて、お客さんが来店する前日の夜に入荷していない事に気が付き、翌朝往復2時間をかけて他店まで新幹線で商品を取りに行った事もある。
もちろん赤字だ。
本人はギリギリ間に合った事と新幹線に乗った事で興奮して喜んでいたが、上司からはこっぴどく怒られていた。
しかも、その商品というのがトルソー(洋裁に使うマネキンのようなもの)だったもんだから、また笑いのネタにされてしまう。
新幹線で軽装なのにマネキンだけを抱えているハリー・ポッター…それはそれは異様な光景だったろうと。
そんな後藤さんが連休の時に、また事件が起こったのだ。
取り寄せ商品を取りに来たというお客さんの商品が見当たらないのだ。
後藤さんの担当商品で入荷した形跡がない。
当の本人後藤さんに確認しようにも、連休中だからか全く電話に出ない。
普段は休みの日には電話を掛けないのだが、お客さんに迷惑をかけてしまっている以上、本人に確認するしかなかった。
皆で何とか調べたところ、どうやら納期を誤って伝えてしまっていたそうで、入荷前に来店されてしまったようだった。
丁重に謝り、よいお客さんだったのでまた来ますと言ってくれ、とりあえずその場は事なきを得た。
暫くすると、折り返し後藤さんから電話がかかってきた。状況を説明し、怒る上司が『おまえどこにいるんだ!』と後藤さんに聞くと、今東尋坊に居ると…??
ここのところミスが続いていた後藤さん…
上司も声のトーンを落として『ああっ…そうか。気を付けて帰れよ。』と、電話を切った。
従業員皆が、そこまで追いつめられていたとは知らなかった、と心配した。
後藤さんの休み明け、ようやく出勤してきた後藤さんに皆気遣って接していたところ、『綺麗なところでしたよー。昔から一度行ってみたかったんです。僕が自殺なんかするわけないじゃないですかぁ。』とヘラヘラしなから東尋坊に行ってきましたクッキーを配る後藤さん。
この強靭なメンタルな人を少しでも心配した僕らがバカだったと思った。
まだまだ、これは愉快な仲間達のほんの一部だ。




