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不良品  作者: めじろ
10/11

8.ピーターパン

大人になっても、お子様ランチを食べたい人の為に『大人様ランチ』というメニューがある。

そして、いつまでも子供心を忘れない人の事をピーターパンシンドロームとも言う。




夏休みって、誰の為にあるんだろうか。

昔は学校の先生が週6で働いていたから、その代わりに長期休暇があるんだとずっと思っていた。

職員室に先生はほぼ居なかったからだ。

今は働き過ぎ問題が出るくらいだから、夏休みも職員室は先生達いっぱいいるんだろうね。




世の中、夏休みがやってきた。

お店でも、毎年8月の2日間だけ様々な工作イベントを行う。



各階、売場の商品を利用して作成するイベントを2パターン考えなくてはいけない。

なぜ2パターンかと言うと、

一つは、有料で大人が参加しても恥ずかしくないそこそこのものが作れるイベント

そして、もう一つは無料で簡単に作れる子供向けのイベント

万人が楽しめるよう工夫している。


作業時間は30分から1時間で、1クール1時間交代で5〜10人程度のお客さんが参加する。

そして、1つのイベントに対して従業員3人が付き、2クール(2時間)の交代制で仕事の合間に対応している。


お客さんの客足を増やし、創造力や購買意欲を駆り立て、売り上げに繋げる為のイベントで、各階思考を凝らす。

子供の夏休み工作にそのまま利用するという人も少なくない。



有料のイベントがどんなものかと言うと…

例えば、僕のいるインテリア売場では参加料1,000円で枕カバーに好きなだけ羽根を詰めて『好みの羽根枕を作ろう!』というイベントだ。

お察しの通り、参加料1,000円で赤字覚悟のイベントではあるものの閑古鳥が鳴き、唯一参加してくれたお客さんも秒で作れて帰ってしまい失敗に終わった。

そんな感じで、材料費も含め300円〜1,000円の有料イベントを行う。



それに比べて無料のイベントはというと、色紙やクレヨンなど費用がほとんどかからない工作をする。

買い物に集中したい親が、子供を置きざりにして参加させている事が多い気がする。

学童みたいなもんだ。



ところがしかし!毎年一定数、大人になりきれていない少年の心を持った人達も現る…

そう!所謂ピーターパンシンドロームだ!



お昼を過ぎて、この日も来た!来たぞ!

エスカレーターの上階から降りて来るのが遠目で見ても分かる…

頭には、子供のお遊戯でしか見ないだろう紙製のうさぎの耳を身に着けている。文具売場のイベントにでも参加してきたのか。

手にはペットボトルを加工して作った風車のようなものも持っている。アウトドア売場もしくは忌避用品売場のイベントだろうか。

上の階から順番に無料イベントだけを参加し降りてきているのだろう。


イベントの主催者側がこんな事言うのもどうかと思うが、20代の成人男性がする格好ではない。

大人がそんなものを作って、家に持ち帰りどうするというのか。



このピーターパンシンドロームと思われる男性は、僕の予想通りエスカレーターを降りてきて真っ先に無料イベントの受付に並び始めた。



僕の売場で実施している無料イベントはというと、針金と木で作る本立てだ。

作り方は、

①赤、青、黄色の被覆を纏った針金から好きな色を選ぶ。

②円柱の空き瓶を利用して、①で選んだ針金をぐるぐると隙間なく綺麗に巻き付けコイル状のバネを作る。

③②で作った針金のバネを等間隔に少し開き、木の板に貼り付ければ完成。

バネの隙間に本やCDを立てて収納する簡素な造りの本立てが出来る。



子供向けのイベントの為、制作用の机や椅子も低めに設定している。そんな中、4人の小学校低学年と思われる子供達に混ざって、明らかにサイズ感の違う大人が一人、うさぎの耳を着け姿勢よく鎮座している。

付き添いの親達は椅子には座らず屈んで子供の横に寄り添っているので、参加者の親でない事は傍から見てもよく分かる。


簡単に工程を説明し、それぞれ制作に取りかかってもらった。

従業員は子供だけで参加している子に声をかけたり、力のない小さな子には空き瓶の巻き付けを手伝うのが役目だ。

子供達は不器用ながらに一生懸命作業にとりかかっている。とても楽しそうでお手伝いする必要もなさそうだった。


と、微笑ましく眺めていると、なんとピーターパンが必死に出来ないアピールをしているではないか。

子供よりも絶対に力があるはずなのに、慌て過ぎなのか瓶に隙間だらけのガッタガタの針金を巻き付け、それを高々に持ち上げて、同僚の高木さんの方に向けて手伝ってアピールをしている。

高木さんは僕より2つ歳下の女性従業員だ。ちゃんと自分の意見が言える活発な人で、みんなに優しく慕われている。

高木さんを嫌いだと言う仲間はいない。


そんな誰にでも優しい高木さんがピーターパンを視界に入れまいと、死んだ魚の目のような顔をしている。

おそらくピーターパンの存在には気付いている。


高木さんがダメだと察したのか、今度は川合さんへ出来ないアピールをし始めたピーターパン。

川合さんはというと、子供達の対応に夢中で全く気付いてないようだ。

次は僕の番だと思ったが、男には全く興味がないらしい。いない者として扱われている。

ピーターパンも男だった。


淡々とこのカオスの状況を繰り返しては、皆本立てを完成させていった。


ピーターパンも本が立てられるとは思えないガッタガタの本立てを完成させ、持ち帰り用の袋にそれを押し込んでは、慌ててエスカレーターに乗り込み下の階へ向かった。



風とともに去っていったと余韻に浸る間なんてものはなく、次のピーターパンが現れる。

毎年、それを何度か繰り返すのだ。



ここでも変わった大人というものは強く印象に残るが、子供達の顔はすぐに忘れてしまう。




今年もお店の中を自由に飛び交うピーターパン達の時期がやってくる。



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