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不良品  作者: めじろ
11/11

9.[番外編]人間観察

通勤途中にもゆかいな人、変わった人は山ほどいる。

人間観察好きな僕にとっては宝の宝庫だ。


今は電車に乗るとほぼ皆スマホしか見ていないが、一昔前は電車に乗る人の時間の使い方と言えば、

①本を読む

②寝る

③携帯メールをひたすら入力する(電波が届かないので、地下鉄を降りたら一斉送信するらしい)

④おばさまや学生の井戸端会議

⑤他人目を憚らずイチャイチャするカップル

⑥ただただボッーとするもしくは吊り革広告を眺める

に分類され、①と②が大半を占めていたように思う。



僕は言うと①②の時もあれば、⑥人間観察が趣味だと言っても過言ではないくらい電車の中にいる人物を眺めるのが好きだった。

顔や目玉は全く動かさず、死んだ魚のような目で眺めるので、周りに趣味を堪能していることなど全く覚られないプロ中のプロの観察者だ!

いつも同僚に電車で見かけた面白い人達のことを話すと、なぜそんな人達ばかりに出会うのかと驚かれるが、こっちから見つけにいっているから遭遇するのだと思う。



そんな僕が、群を抜いて気になった人達を少し紹介したい。



[終電シャドーボクシング]


僕は職場まで電車を乗り継ぎ通勤していた。

売場のレイアウトを変更する時なんかは、終電になる事も多々ある。

乗り継ぐ先の電車はローカル線の始発駅だから、ラッシュの時間帯でなければ大概いつも座れる。



その日も残業で終電になってしまった。

車内はガラガラで余裕で座われたが、いつもとは違う妙な違和感を感じた。

あっ!そうだBGMがかかっている!

いつから流すことにしたんだろうか。

しかも、終電だというのに…選曲がロッキーのテーマ曲(Gonna Fly Now)。深夜にこれじゃ目が冴えるじゃないか。


と…突然サビに差し掛かったところで、50代半ばと思われるよれよれのスーツを着た泥酔のサラリーマンが立ち上がり、シャドーボクシングを始めた。

酔っ払っているので目はほぼ開いておらず、シュッシュッと言いながら、決してボクシングを習っている人ではないと分かるスピードで拳をあげている。


あーぁ、こんなBGMをかけるからこんな事も起きるわ。


ふと周りを見渡すと、この車両には僕とサラリーマン、そして奥の方に女性が1人の計3人しか乗っていない。

僕もいつものプロ中のプロで平静を装ってみるが、この時ばかりはさすがのポーカーフェイスも笑いを堪えるのに必死だった。

その後、発車するまでの間に2人の男性が乗車してきたが、2人とも乗り込むと同時に泥酔サラリーマンを見てびっくりした顔をする!それがまた僕の笑いを誘った。


やがて電車が動き出し、ロッキーのテーマ曲も終わったがサラリーマンは座る様子もなく扉になだれ込むようにもたれかかっていた。

1ラウンドを終えて疲れきって眠ってしまったのだろうか。


そんな事を深く考えている間もなく、次の曲がかかった。

大滝詠一の幸せな結末。ロッキーからの大滝詠一とは、全くどんな選曲なんだ!と心の中でつっこみを入れていた時、

『髪を〜ほどいぃた〜君の〜しぐぅさぁがぁ〜』と、あの泥酔サラリーマンがマイクを握っている素振りで歌い出し、車内がたちまちカラオケジャックと化した。


凝視をしてはならないと思いつつも、目が開いていない相手なのでチラ見を続けていると、サラリーマンの肩に耳から外れたと思われるイヤホンが掛かっており、そこから大音量の音楽が流れていたのに気付いた。

あまりの大音量だったので、まさか個人の私物から流れていた曲だったとは全く気が付かなかった。


このままリサイタルを見ていたい気もしたが、次の停車駅で泥酔サラリーマンは歌いながら下車してしまった。

残された乗客はというと、皆目でサラリーマンを見送ったあと、妙な一体感でそれぞれ見つめ合った。

変な人を見つけた時って、必ずこんな間があって、妙な一体感が生まれる。



僕は残業疲れの眠気も吹き飛び、とても幸せな気持ちにさせてもらったが、仕事に行くのにロッキーのテーマ曲を聴かなければならない、そんな精神状態に追いやられている人もいるのかと思うと少し可哀想な気もした。


でも、他人の選曲を知るって…やっぱりワクワクする。




[カップ大関]


朝の地下鉄は満員電車だ。

それだけで気持ちも憂鬱になる。

こんな通勤ラッシュの時間帯だというのに、隣の車両から扉を開けて人を押しのけ移動してくる人がいる。そんな事する人なんか滅多に見かけないのに、今日はめずらしい。


どんな奴だ!と思って見てみると、朝からカップ大関片手に泥酔のおじいさんが現れた。

反射的に、これは見ちゃいかん奴だ!と顔を伏せ、そのまま通過してくれと思っていたら、なんと僕の1mくらい手前のところでピタッと止まった。

朝からこんな厄介な人に出くわすなんて、はぁ〜今日はついていない。

ほぼ皆これから出勤だというのに、朝から飲酒とは老人の特権である。


それから次の駅に停車し、人の入れ代わりはあったものの、おじいさんはそのまま居る。

残念だ。

すると!突然おじいさんが大きな声で喚き始めた。『ぅうわぁ~またメガネだ!わしゃメガネが大嫌いなんじゃ〜!』と暴言を吐いている。

声のする方を見ると、おじいさんの目の前には眼鏡をかけたおとなしそうな女子大生が立っていた。先程の駅で乗車し、運悪くおじいさんの目の前に立ってしまったようだった。

そして…おじいさんは大関を手にしたまま、満員電車を手でかき分け次の車両へと歩き出した。

眼鏡をかけている人が近くにいることが許せず、車両を転々と移動しているんだろう。


僕は近くに厄介な人がいなくなった事に正直ほっとしたが、それと同時に何も悪いことをしていないのに朝から嫌な思いをさせられた女子大生のことを思うと気の毒でしょうがなかった。

可哀想に、泣きそうな真っ赤な顔で気不味そうにしている。

助けようにも加害者が移動してしまった以上、僕らは誰もどうすることも出来なかった。



僕も今朝、目の調子が悪く眼鏡にするか迷いに迷ったあげくに、コンタクトで出かけたところだったのだ。

僕が被害者になっていたとしてもおかしくない。

助けられなくて申し訳ない。



朝も夜も泥酔者には要注意だ。




[確信犯]


今日も何とか座席に座ることが出来た。

販売員は職場で立ちっぱなしだからか、帰りの電車で座れるのはとても嬉しい。


向かいの座席にも相当疲れているのか、うなだれて船漕いで寝ている男子大学生がいる。

たまに遭遇することがあるが、隣りの人にもたれかかって眠る赤の他人ほど迷惑なものはない。

寄りかかられている隣りのOLさんも大変だ。肩にもたれてかかると言うより、もっと斜め前に乗り出しちゃっているもんだから、危うく大学生の頭がOLさんの胸に当たりそうになっている。

OLさんも何とかカバンでガードしようと必死だ。


そうこうしているうちに、OLさんは最寄り駅についたようで下車して行った。

ほっとしたのも束の間、ずっと左側にうなだれていたはずの男子大学生が今度は右側へうなだれ始めたのである。

こちら側もOLさんと思しき女性が座っている。


ここまでうなだれる前に大概の人は、ピクッと起きては元に座り直すを繰り返すような気もするが。

あーぁ。ほんといい迷惑だ。

隣に座ってしまった女性を思うと気の毒だ。


こちらのOLさんも3駅ほど進んだところで下車して行った。

次はどうするのかと思い眺めると、あれだけ船を漕ぎ続けていた男子大学生はなんとパッチリと目を覚まし、体を真っ直ぐ起こして座っているではないか。

正面に座っていた僕は目が合ってしまい、すぐに逸らした。

ん??待てよ。

そうだ!今、彼の両側に腰掛けているのはサラリーマンだ。


彼はずっと寝た振りをしていたのだ。

その後、右側のサラリーマンが下車し、またOLさんが座るとやはりまた右側に船漕ぎが始まった。

が、今回は車内も空席が疎らに出て来ていたので、OLさんも一歩横にずれ回避する事が出来た。

彼の作戦は失敗に終わり、また目を覚ました。

また僕と目が合う。黙っていろと言わんばかりの顔だ。


一部始終を見ていた僕は、新手の若年痴漢で間違いないと確信した。

若いのにもう変態の道へ進むだなんて本当に勿体ない。





こうして考えて見ると、変わり者は男性に多い気がする。まだまだゆかいな人達はいっぱいいるが、これくらいにしておく。



僕は悪目立ちせず、真っ当に生きたい。






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