山門編-初国知らす王の章(45)-出雲の荒王(16)
<これまでのあらすじ>
豊秋津島の青垣山籠もれる山門の国は、俳優の少年御統と黒衣の少女豊、そして多くの人の活躍と犠牲で剋軸香果実の厄災を乗り越えた。
天孫の磐余彦狭野姫は、手研の乱を鎮めたあと、名を日照と改め、旅の仲間とともに出雲へ向かう。
日照たちは吉備の統治を巡る争いに巻き込まれ、山門人の武彦とともに吉備の正統を取り戻す。
日照は次兄の稲飯が出雲主の座を簒奪し、荒王と怖れられていることを知り、出雲へ向かう。
出雲の首邑、日隅邑に到着した日照は牢の呪を打ち祓い、出雲主たる次兄と対峙する。
誓約により次兄に誠心を認められた日照だったが、出雲主の側近、振根から横槍を入れられる。
日照は占縄引きの勝負に応じるが、まさかの敗北。永久の巌の呪いが彼女を助けた仲間もろとも白い石に変える。残された豊城彦と豊鍬姫は日隅邑から脱出する。
韓久からの助言を得て、八重族の邑を目指す豊城彦たち。しかし、歓迎されるはずもない彼らは、八重族の仕掛けた呪いに捕らわれ、鳥の餌にされかける。豊城彦と豊鍬姫の奮戦により危機を脱すると、八重族の御言持に迎え入れられる。そこで、言代主の行方を知った兄妹は美保族の邑へ向かう。その途中、怪しげな人物に遭遇する。
≪是非ご一読ください。ご感想、ご評価をいただけましたら幸いです。≫
<人物紹介>
豊城彦
俳優の少年・御統と黒衣の少女・豊の生まれ変わり。入彦を父として育つ。自由奔放。
豊鍬姫
俳優の少年・御統と黒衣の少女・豊の生まれ変わり。入彦を父として育つ。呪能に秀でる。
入彦
磯城族の氏上。厄災を乗り越え、一角の人物に成長する。磯城の県主。
美茉姫
入彦の妻。明るい美しさの女性。淑やかであり、闊達でもある。
活人
入彦と美茉姫の子。引っ込み思案で臆病者だが、やるときはやる。いつも兄と姉に翻弄される。
大彦
入彦の伯父で舅。怪力無双。豪放な性格だが、娘の美茉姫には頭が上がらない。
石飛
磯城族の青年。入彦の舎人。
百襲姫
磯城族の斎宮。入彦の大伯母。呪能は無尽蔵。
翠雨
入彦の愛馬。御統の友人。濡れたような深い青色の毛並み。
如虎
黒豹。豊の友人。厄災後は、磯城の三輪山の森の中で静かに暮らしている。
翔
豊鍬姫になついている熊鷹の子。
日照
旧名は狭野姫。かつて天孫族の氏上であり、磐余彦を号して山門主であった。超絶美女だが、乱暴でわがまま。入彦を慕っている。
手研
故人。狭野姫の年上の甥。狭野姫が唯一甘えられた人物。入彦に狭野姫を託して逝く。
珍彦
狭野姫の忠臣。手研の盟友。
道臣
狭野姫の忠臣。手研の盟友。
吾曽利
天孫族の有力者。狭野姫に不満を抱いている。山門近傍に潜伏し、捲土重来を期す。
太忍
葛城族の氏上。山門の権力掌握をもくろむ。
雄心
旧名は剣根。太忍の庶子。過去の所業を悔やみ、日照の従者となる。
五瀬
故人。狭野姫の長兄であり、手研の父。高千穂族とともに東の真秀場を目指し、天孫族を号する。初代の天津彦。
五十鈴媛
五瀬の後妻。出雲族の出身で、製鉄技術者集団と縁が深い。手研にとっては、同年代の継母。
香魚
両性具有の人。神々も魅了する美しい瞳を持っている。
荒王
出雲を実効支配する。元の名は稲飯。日照の実兄。
五十鈴依媛
須賀族の氏上。出雲の荒王となった稲飯を秘かに想う。
秀火
元須賀族。妖言により荒王の配下となっていたが、日照に解放される。
若彦
元須賀族。妖言から解放されていたが、稲作で荒王を支える。
<用語>
高天原:天上世界
豊秋津島:物語の舞台
葦原中国:豊秋津島の別名
山門:豊秋津島のほぼ中央に位置する地方
青垣山:山門の周囲を囲む山並み
筑紫洲:豊秋津島の西部にある大きな島で、白日、豊日、建日、日向の四地方を持つ
真:先端の文明が栄えている西の海の果ての大陸
氏上:一族の族長
天神地祇:八百万の神々
祖霊:祖先の霊魂 氏上は死ぬと神上がって祖霊となる
精霊:森羅万象に宿る魂
魑魅:山林の異気から生まれた邪霊
厄災:山門を呪いによって支配していた饒速日の体制を瓦解させた大災
剋軸香果実:高天原の神々が下界に投げ捨てた邪心が凝固したもの いつか高天原に帰ることを望み、時を戻す霊力を蓄えるため大地に寄生して石の花を咲かせる
山影と空との境が白々と開けてくると、本物の長鳴鳥が朝を告げる声で澄明な大気を震わせた。ちなみに、長鳴鳥とは、いわゆる鶏である。
人の一日が始まる。比賣埼邑では櫓や土塁の上の燈火が消え、炊飯の白煙が立ち昇った。狩りや漁にでかける男たちのため、邑の門も開く。だが、この朝、開門を待っていたのは、邑の男たちだけではなかった。
獣入りの海から流れくる朝霧をまとって、天女かと見紛う美しい童女がそこに立っていたから、邑の男たちは魑魅の現出かと仰天した。
男たちの慄きを合図に、童女は朝霧を白衣のように、白羽のように身に絡ませ、白き渦を巻くようにして舞い始めた。それは邑の男どもがかつて見たこともない美しい神楽舞であった。
「いやさ、吾が名は豊鍬、これなる朝明けに現たるは、天津日輪の禱みを、美保の主者に言依さしせんために、吾を御舎へ連れたるは誰そ」
朝日を照り受けた光輝を放つ四肢で朝霧を撹拌するたびに、男心を蕩かす科が生まれ出ずる舞である。呪力を濃厚に帯び、一差しごとに精霊や魑魅を呼び寄せ、踊りださせる妖しさがある。
寝ぼけまなこに強烈な甘美を浴びせられた男たちは恍惚となり、中でも、舞の終わりに、童女のものとは思えぬ色香の流し目に直視された男は、稲妻に打たれでもしたかのように硬直した。
「わたくしを、美保津媛の許へお連れくださいませ」
それは願いの言葉ではなく、男たちにとっては天細女から耳元に吹きかけられた吐息であった。なお、天細女は天神地祇をも手球にとる妖艶な舞踊の神である。
男たちは一斉に回れ右をし、硬直した男を先頭にして歩き出した。彼等の思考は、この妖舞の主を美保津媛の堂舎へ案内せねばならぬ使命感で占められた。その男たちの様を見て、ようやく童女は童女らしく小さな舌を覗かせて微笑した。
美保族の男たちを操ったこの童女は、豊鍬媛である。あの艷やかな神楽舞は、吉備の統治権を正統に返す一連の日々のなかで、日照から手解きを受けた。それからも機会のあるごとに、豊鍬媛は日照から舞の奥義を伝授されていた。もっとも、日照が舞ったならば、招き寄せられるのは精霊や魑魅でなく、天神地祇であったろう。
さて、朝も早々、美保族の男たちを弄んだようなこの策を考え出したのは、豊城彦である。日照によって審美眼を鍛えられた豊城彦の眼にはまだまだ未熟の映る豊鍬媛の神楽舞も、一夜のうちに霊力を蓄えた原野の夜露を拭い取るように流れてくる朝霧をまとえば、寝起きの男を使嗾するくらいのことはできる。美保津媛に面会するための余計な問答や礼式、邑人の勇魚への悪感情を避けるためには、この手法がもっとも効果的であると豊城彦は目論見、みごとに的中させた。
勇魚といえば、朝霧に姿を隠し、兄妹のやり様を物見して、顎に指を置きながら頻りに感心していた。
何かに憑かれたような男たちの一団、その後ろを舞うような足取りで続く童女、その後ろに黒幕の童男、黒毛の獣とその背の熊鷹、最後に頭巾で顔を隠した不審者。
この朝まだき、比賣埼邑で見られた光景がこれである。
「で、まんまとお招き申し上げたってわけかい」
ここは斎宮へ続く渡殿の途中、清らかな静寂と烟るような朝の光を受けて、純白単衣の美保津媛揖夜は組んだ細腕に怒りを迸らせている。
朝の勤めに、斎宮へ向かっていた彼女は、童女ごときに酔わされた馬鹿な男どもに平手打ちを賜って目を覚まさせた。
「申し訳ございません」
夢見心地で先頭に立っていた男は、両頬に真っ赤な手形をつけて、それらしき言葉を吐いた。
目覚めたら閻魔に出会ったという態で、男たちは美保津媛揖夜の前から辞去した。
豊城彦は、父から聞いた話を思い出していた。
かつて山門が未曾有の厄災にみまわれたとき、父である入彦と共に山門を救った者たちがいた。草原の地祇、鹿屋野姫もその一人で、人の姿で御現し、鹿高と名乗っていたときの容姿が揖夜の躍動的な美しさに重なった。
「いろいろとあの手この手を考えるものだな」
豊鍬姫と豊城彦には和らげな視線を向けた揖夜だが、兄妹の後ろで臆面もなく構えている勇魚には喧嘩腰の声を投げつけた。
「吾の言葉を信じてもらうためには、手童の知恵にも縋るってもんさ」
こともなげな勇魚の言い草に、揖夜は鼻息で応えた。
「夷者の汝の言葉など、誰が信じようか」
「せめて、汝への恋心だけは信じてくれ」
「それが先ず以って信じられぬというのだ!」
揖夜は飛び上がって怒りを表現した。もしも彼女の細腰の帯に刃物が挟まれていたなら、確実に投げつけられていただろう。彼女が早朝の勤めのため霊廟へ参拝する途中の素衣丸腰であったことが幸いした。
(…憎からずにはあるようだ)
揖夜の憤慨は照れ隠しと見て取った豊城彦は、恋路の達者を気取っている。ただ彼自身は、いまだ恋路に足を踏み入れたことはない。
「そんなことより」
茶番を終わらせたのは豊鍬姫である。彼女だけは、いまこの場にいることの意味を忘れずにいた。
「美保津媛様にお願いもうしたきことがあるのです」
豊鍬媛は童女のあえかな瞳で揖夜を見上げた。彼女の幼い眼差しを向けられ、揖夜の逆立った柳眉はたちまち眉尻を下げた。邑の男たちを厳しく躾けた揖夜も、しっかりと豊鍬媛の術中に嵌っている。
「愛らしき童女よ、元気な健男よ、汝らは、いたわしい、あの夷者に使われておるのか」
「いえ、あの人のことはどうでもよいのです」
急に素気なく勇魚の存在をあしらった豊鍬媛は、勇魚の抗議の声も黙殺した。その言いぶりを、揖夜は甚く気に入った。
「そうよ、あの男などどうでもよいのだ」
遠来の良友を迎えたときの親しさで揖夜は豊鍬媛の肩を抱き、近くの房へ招き入れた。豊城彦と黒毛の獣、その背の熊鷹もあとに続き、勇魚の目の前で扉が閉じられた。
清楚な一房である。牖からの光が房内を浄めているようだ。
「願いを聞こうじゃないか」
床に腰を下ろした揖夜は、豊鍬媛たちにもそうするように勧めた。
「まずは、勇魚様もここにお招きいただけませんか」
豊鍬媛は揖夜の感情を逆立てぬような言い方をしたが、揖夜の口は尖った。
「あの男のことはどうでもよいと申したではないか」
「はい。勇魚様のことはわたくしの知ったことではごぞいません。されど、わたくしと兄は、どうしても勇魚様の助けがいるのです」
豊鍬媛は豊城彦とも分担して、ここに至る経緯を説明した。二人が家族とも頼む人たちが危殆にあること、救い出すために勇魚の力を借りるよう助言を受けたことなど、隠し立てせず、すべてを明らかにした。
「出雲のやりようは確かに近頃、目に余ってはいたが。汝らは、それを正そうと試みたのだな」
それは義挙である、と揖夜も認めざるを得ない。出雲族は大族である。出雲族からの横暴な要求に反感を抱いても、多くの族は感情を腹の底に沈めて従わねばならない。美保族もまた、不本意ながら服っている。周囲の小族を力でねじ伏せ、筑紫の諸族との戦いに駆り立てるやり方に、どの族の氏上も辟易していながら異を唱えることはできていない。果敢に反抗を試み、潰された族はいくつもある。揖夜が勇魚に疑いの目を向けるのは、彼が出雲主の継承者足りうる血筋を有しているからだ。
無論、勇魚の歓心を得て、出雲族に従う諸族の中で優位を占めるという考えもある。だが、それは揖夜の自尊心が許さない。それは美保族の氏上として出雲族に逆らえない揖夜の最後の抵抗でもある。
ともかく、出雲族の脅威に拳を握りしめながらも振り上げることのできなかった揖夜は、眼の前に端座する兄妹と彼等が家族と恃む者たちの勇気と義侠心に心を強く打たれた。
「わかった。汝らに力を貸そう。さしあたり、なにをすればよいか」
揖夜としては、今ここで剣と矛を携えて共に出雲族と戦ってくれと請われても、肯うつもりだった。
「勇魚様のお話をお聞きください」
豊鍬媛は豊城彦に扉を開けてもらい、勇魚を招き入れた。
「では勇魚様、八重族が霊妙より賜った託宣、美保族に迫りつつある厄災についてお話ください」
豊鍬媛は膝をずらして、揖夜の正面を空けた。そこにいそいそと勇魚が腰を下ろしたが、その横面へ、
「勇魚様、お弁えのことでしょうが、もはや戯言は要無し でございます。いたずらに散楽ひなどいたされますれば、少しばかりお叱りいたしますよ」
と、豊鍬姫は、凍気をまとった笑みを投げつけた。彼女としては、一刻も早く日照たちを石化の呪いから解き放ちたいし、そもそも良い歳をして妻問いなどにうつつを抜かしている勇魚は気に食わない。
「心得ておる」
豊鍬姫の顔は見ずとも、彼女の瞳が氷刃のような光を放っていることは肌で感じた勇魚である。少しばかり、が決して言葉通りでないことも、背筋で感じた。なお、散楽ひとは、おどけたり、冗談を言うことで、のちには滑稽劇などの芸能を指すようになり、猿楽の語源ともなった。
「さて、あいかわらず麗しさが迸っておるな。どうかな、そろそろ吾と後朝を…」
揖夜のしなやかな足が鋭く伸びて、下品な口上を吐こうとする勇魚の口を痛打という手段でふさいだ。
「そういうことをな、申すなと言うのだ」
「…これは挨拶ではないか」
勇魚は涙目となったが、彼にとっては気の毒なことに、この房に彼への同情は揺蕩いもしなかった。ちなみに、後朝とは男女が共寝をした翌朝のことで、衣々とも書く。
「美保族に迫っているという厄災のことをさっさと話さぬか、この夷者めが」
揖夜の叱声を浴びて、勇魚はしぶしぶそのことを話し始めた。ただし、警告の内容を騙るのは今回が始めてではないが、過去、勇魚が揖夜に語った言葉の大半が口説き文句であったため、真実味と緊迫感がまったく伝わっていなかった。
「美保族がこの比賣埼邑をこの地に構えて久しいが、いまだかつて、地震にも台風にも苛まれたことはない。獣入りの海に、海霊の千尋鰐、地揺などという化け物が棲んでおることなども聞いたことがない」
揖夜は容姿に信じようとはしない。何の根拠も兆しもない話で、邑人全員に避難を命じることはできない。
「壁立は遥かに遠く、虚空に果てはない。人がすべてを知ることなど、あり得ようか」
美保族の見聞の少なさを、勇魚はそのように指摘した。なお、壁立とは、地の果てのことである。
「吾を痴がるか」
揖夜は片膝を立て、髪も波打たせた。どうも癇性の質らしく、勇魚との話が進まないのは、彼女にも原因がありそうだった。
「地揺が海の底で居眠っているかどうかはさておき、それはいつ起こるのさ」
しびれを切らした豊城彦が、別の糸口を提案した。
「むっ、そういえば…」
意表を突かれたという顔をした勇魚は、頭の中で日数を算た。
「次の月立ちであったはずだ」
はずという曖昧さが場の空気をしらけさせたが、ともかくそういうことだと勇魚は言った。ちなみに、暦という時間の構成技術が大陸から伝わるのは、ずっと後年のことになる。
「次の、というのはいつからのことさ」
豊城彦が当然の確認をした。
「もちろん、託宣を賜ってからだ」
「まて、次の月立ちだと。ゆうべは月隠であったではないか」
揖夜の口調が慌てた。月立ちは朔日、月隠は晦のことである。つまり、今宵の月は新月ということであり、託宣は今日の厄災を告げていたということだ。
目を点にした勇魚はしばらく考えてから、
「あ、そうか」
と、両手を打って惚けた音を鳴らした。すかさず、怒声と罵声と叱声の三重奏を三方から浴びた。
「いや、揖夜どのへの愛しき思いが大きすぎて、そのことはすっかり心から転げ落ちておったわ」
勇魚は盛大に笑ったが、もはや彼の話を聞いている者はいなかった。
「昨日の夜は、確かに月を見ませんでした」
「てことは、月立ちは今日になるけど、夜のこととしても、もう暇はないな」
「まてまて、いまもって何の兆しもないのだぞ」
勇魚を除け者にした揖夜と豊鍬姫、豊城彦は額を寄せ合って切迫感を共有した。やがて、三人は三様に勇魚を窺い見た。海霊の地揺などは、揖夜に近づくための方便ではないのか、とどの目も疑っている。
「霊妙の託宣を疑ってはならぬ」
厳乎とした勇魚の声色に、三人は目を見張った。
声だけではない。一度視界から外していた勇魚を再び見たとき、彼の姿は巨大に見えた。壁に映った彼の影が房を覆い、体内から放たれた気迫に押し流される錯覚を見るほどの、有無を言わせぬ迫力があった。
そしてそのとき、実際に、房を、堂舎を、邑を突き上げる衝撃があた。それはすぐに収まり、何の被害ももたらさなかったが、揖夜の顔は青ざめた。
「急がねばならぬな」
そう言った勇魚の姿は飄々としていた。
「地揺はまだ寝置きたばかりであろう。奴が海面に近づき、大波を起こすにはまだしばしの暇がある」
「とはいえ、邑人みなに報せ、大波から逃げおおさせるには暇が足りぬ」
「そのことについては、吾に考えがある」
「ほう、色ぼけしていただけではないとみえる。して、どのような」
「美保族は鳥を崇め、多くの大鷲を養っていると効く。大鷲の主がおろう。主に眷族を集めさせ、大鷲の翼で邑人を高みへ運べばよい」
突拍子もない話に聞こえるが、美保族が崇めている大鷲は強大な翼と強靭な脚爪を持っており、人を運ぶなど造作もないことであった。
「しかし、太円様がお許しくださるかどうか…」
揖夜に確信はない。太円は美保族が崇める大鷲の主であり、何かと気難しい。
「案ずることはない。吾らには天神すら蕩かす巫がおるではないか」
勇魚と揖夜は豊鍬姫を見つめた。
「ぬかりないやつめ」
揖夜は、ようやく勇魚を認めた。
勇魚が揖夜との距離を縮めている隣で、豊鍬姫と豊城彦は顔を見合わせていた。
話の流れとして、どうやら豊鍬姫がその巫としての蠱惑的な呪能を買われ、大鷲への祈願をせねばならないようだ。それはいっこう構わない。が、大鷲というところが、どうにも気になる兄妹であった。
世界中で大きな災害が起こっています。熊本、茨城、千葉、石川、富山、福井、これまでに災害に遭われた方に心から哀悼の意を捧げます。かくいう私も二度被災しておりますが…。
日本書紀や後漢書、三国史記などの歴史書にも、天災がいくつも記されています。およそ1400年前、天武天皇の時代に白鳳地震が起こりました。これは、南海トラフ地震ではないかと言われています。日本書紀にある最古の地震の記録は允恭天皇の時代です。
わが国やお隣の国、中国では、天災は為政者の不徳を天が咎めていると考えられたそうです。宰相や大臣級が責任を問われて辞職したという記事がいくつも出てきます。魏国の創始者であるかの曹操の父は、一億銭もの大金を支払って太尉という最高位に就きましたが(当時の後漢では官職に就くのにお金が必要でした)、わずか五ヶ月後には天災の責任を問われて辞職しています。
昔は天というものの存在が真剣に信じられていたのだなぁと思っていましたが、昨今の各国指導者のおよそ常軌を逸していると思われる行動を見ると、あながち自然科学の蒙昧と言えない思いがします。
願わくば各国の指導者が歴史を顧みて、正道を志さんことを。




