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神は言った。ラブコメに水着は定番だよね、と。  作者: 巫 夏希


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第51話 終焉(4)



 ――学校って面白い?



 その一言が。

 崩落寸前の地下施設にいた全員の思考を数秒ほど停止させた。


「今それ聞くのかよ!」


 僕が思わず叫ぶと、少年は少し肩をすくめるような仕草を見せた。


「だって気になるから」


 その返答はあまりにも真面目だった。

 ふざけているわけではない。

 本気で気になっているらしい。

 それが分かるから余計に困る。


「いや、気になるのは分かるけど!」

「分かるの?」

「分かるけど今じゃない!」

「なぜ?」

「施設が崩れるから!」


 その瞬間。

 まるでタイミングを合わせたように、遠くで大きな轟音が響いた。

 地面が揺れる。

 天井から砂が降る。

 そして。

 誰もが同じことを考えた。

 本当に今じゃない。


『補足します』


 ガラムドが割り込んできた。


『崩落予測時間は六分四十二秒です』

「結構ギリギリじゃないか!」

『はい』

「もっと早く言え!」

『五分前に申し上げました』

「細かい!」


 すると。

 エルザさんが額を押さえながら大きくため息を吐いた。


「とにかく移動する」


 金色の瞳が全員を見回す。


「話は外で」

「賛成」


 ひかりが即答する。


「私も」


 のぞみも頷いた。

 反対する者は誰もいない。

 当たり前だ。

 ここに残る理由など一つもない。

 だが。

 そこで少年が小さく首を傾げた。


「移動?」

「逃げるって意味」


 僕が答える。


「崩れるから」

「なるほど」


 少年は素直に頷く。

 そして。

 少し考えてから言った。


「なら最短経路を表示する」


 次の瞬間だった。

 暗いトンネルの壁や床へ、無数の光の線が浮かび上がる。

 青白い光だ。

 地下施設全体の構造図のようなものが空中へ展開され、その中に一本だけ明るく輝く線が描かれている。


「うわっ」


 のぞみが驚く。


「何それ」

「施設マップ」


 少年は答える。


「全部覚えてる」


 そりゃそうだった。

 元々この場所そのものみたいな存在だったのだから。


「便利だな」


 僕が呟くと。

 アークが苦笑した。


「だから昔は頼り切っていたんだよ」


 どこか懐かしそうな顔だった。

 しかし。

 その言葉の途中で。

 アークの輪郭がまた揺らいだ。

 今度はさっきより大きい。

 光の粒が肩から零れ落ちる。


「アーク」


 エルザさんの顔が曇る。

 アークは笑った。


「本当に心配性だね」

「誰のせいだと思ってるの」

「私かな」

「私だと思うなら反省して」

「善処する」

「反省してない」


 即答だった。

 そのやり取りを見て。

 なぜか少年が少しだけ笑った。

 本当に僅かに。

 けれど。

 確かに笑った。

 その表情を見た瞬間。

 エルザさんも。

 僕も。

 ひかりものぞみも。

 一瞬だけ言葉を失う。

 観測者が笑った。

 それだけのことなのに。

 なぜか胸の奥が温かくなった。

 すると。

 少年は自分でも不思議そうに口元へ触れた。


「今の」


 赤い瞳が瞬く。


「何?」

「笑ったんだよ」


 エルザさんが答える。


「これが?」

「そう」

「変な感じがする」

「最初はみんなそう」


 その返答に。

 アークが肩を震わせた。


「君がそれを言うのか」

「何か問題?」

「いや」


 少し笑う。


「全く問題ない」


 そして。

 静かな声で付け加えた。


「むしろ理想的だ」


 その時だった。

 大きな崩落音が響いた。

 今度は近い。

 かなり近い。

 通路の一部が崩れ、後方を土砂が埋め尽くしていくのが見えた。


「話してる場合じゃない!」


 ひかりが叫ぶ。


「走るよ!」


 全員が我に返る。


「行くぞ!」


 僕は先頭へ飛び出した。

 青白い光の道が暗闇の中を伸びている。

 その後ろを。

 エルザさんが走る。

 ひかりとのぞみが続く。

 少年も走る。

 そして最後尾には。

 ゆっくりと歩くアークの姿があった。


「アーク!」


 僕が振り返る。


「急げ!」

「大丈夫」


 アークは穏やかに言った。


「ちゃんと行くよ」


 その笑顔は。

 どこか満足そうだった。

 まるで。

 長かった旅路の終わりがようやく見えてきた人間のように。

 そして僕は。

 なぜか少しだけ嫌な予感を覚えていた。

 この地下施設を出た時。

 本当に全てが終わるのだろうか。

 それとも。

 まだ何かが残っているのだろうか。

 そんなことを考えているうちに。

 遠くの暗闇の先に。

 夜の光が見え始める。

 刑部市の夜景だった。

 長かった戦いの終わりを告げるように。

 静かに。

 そしてどこまでも穏やかに。

 街の灯りが僕たちを待っていた。


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